8話 ユリ一行② 黒い霧
その頃、ユリ、ユーキ、モンペンら一行は石化の精霊『スコール』の神殿の近くに到着していた。そこでは不自然な現象が起きていた。
神殿を中心に黒く霧がかかっているのである。
一行は状況を観察する。
「これは何だ?」
「…わかりません…。」
「様子を見てくる。」
「…私も行きたいです…。」
「…わかった。何かあったら直ぐに言え。」
一行は黒い霧の中に歩みを進めた。
実はこの時、雑魚であるユリにはすでに異変が起きていた。
体調に変化があるわけではない。しかし、頭がぼんやりとして働かないのである。
(…役に立ちたい…。)
その一心で言わなかった。何度か足が止まりそうになる。ユリは置いていかれないようにモンペンに掴まり前に進んだ。
◆
神殿に近づくにつれて黒い霧は濃くなっていく。
ユーキはモンペンが急に歩みを止めたことに気がつき振り返る。
「モンペン、どうした?」
ーー弟よ、お嬢が変だ。俺もなんか変だ。
モンペンはいつも通りもぺっとしており大差ないように見える。
ユリは不自然にぼんやりとしていた。
「ユリ、大丈夫か?」
返事はない。ユリの頬をつねってみる。表情は歪めるがされるがままである。
ユリの目は生気が宿っていなく陰っていた。
その状態に心当たりがあった。
魔王城からの魔力を受けていた夜の国の人々の症状に似ている。
「…生気を奪う魔力か。」
この黒い霧は同様の効果があるのだろう。それも、短時間で影響を及ぼすほどに強力である。
しかし、この黒い霧の原因を探るためにも誰かしらは進まなければならない。すでに影響が出ているユリとモンペンをこれ以上連れて行く訳にはいかなかった。
「モンペン、ユリと共に先に戻ってろ。俺はもう少し進む。頼んだぞ。」
ーーわかった。お嬢を守る。
モンペンの声には張りがない。黒い霧の影響なのだろう。
ユーキとモンペン達は別行動をすることになった。
ユーキは黒い霧の中を進む。霧が濃くなる程に意識が霧がかっていく気がする。
しかし、モンペンやユリほどではない。長年、魔王城の魔力を浴びせられていたため耐性でもあるのだろうか。
神殿に近づく程、霧が濃くなり生気が奪われたためか周囲の草木は枯れていく。スコールの神殿に源があるようだ。
ユーキはスコールの神殿に到着した。
「なんだ…これは…!?」
目の前の光景に愕然とした。
神殿は瓦礫と化し廃れていた。赤い雨の活動は最近のことである。にも関わらず、目の前の建造物はまるで何年も前に壊れたように石は黒く変色し、装飾の金属は錆びついていた。
黒い霧は生気を奪う効果である。では何故生気のない石や金属が廃れるのか。ユーキは理解ができず呆然と立ち尽くした。
そして、瓦礫の上に座っている人影を発見する。
「ッ!?」
それを認識した瞬間、警報と戦慄が走る。すぐに物陰に身を隠した。
勘が告げる。あれに気づかれたら危険であると。
それほどに圧倒的な力の差と存在感がそれにはあった。
黒い霧はその人影から噴出されていた。そのため体が黒く覆われている。
『追いかけっこ、楽しいね。』
その人影が喋っているのだろう。少女の無邪気な声色である。
黒い少女はある名前を呟く。
それはユーキの知っている人物の名前であった。
ユーキは耳を疑う。意味がわからなかった。こんな状況であるにも関わらず考えてしまう。
人々を石化させる赤い雨。生気を奪う黒い霧。何年も前に廃れたように見える神殿。そして、5年前の最強の魔法使いの姿。
ユリを初めて見た時、最強の彼女と間違えたのだ。
『ねぇ。お兄ちゃん。』
「!?」
ユーキが思考している時、それは『転移』したのか目の前にいた。黒い少女と目が合う。
『お兄ちゃんも遊ぶ?』
「ぐ…」
濃い霧に覆われ急速に生気を失う。思考が霧散し、体に力が入らない。
『あは!見ーつけた!逃がさないよ!』
意識を途絶えさせる瞬間、目の前の少女の声とは異なる声を遠くに聞いた気がした。
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