7話 勇者一行② 魔石探し


 エデン、マイ、ボドーら勇者一行はアルマのお墓のダンジョンに来ていた。ここは能力が入れ替わる特性を持つダンジョンでもある。その源が能力を自在に交換する魔石ではないかとエデンは考えたのである。


一行は隈なくダンジョンの中を探した。


そして、何も見つからなかった。


目の前が真っ暗になった。



『ねぇエデン君、何を探してるの?』


そこにダンジョンのボスである青龍が近づく。エデンがアルマのお墓参りで出入りするため仲良くなったのである。


「あ、忙しなくしてごめんね。能力を入れ替える魔石を探してるんだよ。」


『あたしそれ知ってるよ。』


「「「マジ!?」」」


『あたしが満足するまで付き合ってくれたら教えてあげてもいいよ?』


一行は救世主青龍に満足するまで付き合うと約束を交わした。


三時間滞在した頃、エデンとボドーは空腹に耐えきれず食糧調達にダンジョンの出口に向かった。





 マイは青龍と共にボス部屋でお喋りをしながら楽しく過ごしていた。


『ああ、楽しいなぁ。みんながいてくれて幸せ。』


「そうか!さては青龍、お前寂しがりだな!」


青龍が「うん…」としんみりする。マイの気が早めな言葉は意外に的を得ていたようだ。


『寂しかった…ずっとこのボス部屋から出られないし…おしゃべりできる相手もいないし…外から誰かが来てくれるのをあたしずっと待ってたの…。』


「そうだったのか…。」


マイは青龍を思い胸が締め付けられる。同時に故郷で自分の帰りを待っている妹リンのことも想起する。青龍と同様、リンも寂しい思いをしている気がした。


『でもね、最近エデン君がよく来てくれるようになってすごく嬉しいの。ダンジョンの中を綺麗にしてくれて。友達も連れてきてくれて…。』


「良かったな!私も何度でもここに来るからな!」


『それでも足りないの。』


「ん?」




『タリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナタリナイノォォォォ!!』


「!?」


『サミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイ…』


青龍が突然豹変し壊れたように同じ言葉を繰り返す。マイは落ち着かせようと激しく震えるその体を撫でる。


「だ、大丈夫だ!私達がついてる!寂しがることはないぞ!」


『どこにも行かないで!!ずっとそばにいて!!あたしから離れないで!!ひとりにしないで!!旅なんてやめてよ!!』


悲痛な叫びにマイははっとする。それは妹にも言われたことがあった。


「すまない…それはできない。」


『どうして!?約束したよ!?どしてそんなことを言うの!?どうして!?どして!?どうしてぇぇぇ!?』


「それが私だからだッ!!」


マイは青龍を真っ直ぐに見て続ける。


「今、歩みを止めるわけにはいかない。走り続けるんだ。私は、私だけは先を見据え突っ走り続けるんだ。早とちりといわれても構わない!これが私だ!」


『……。』


頑なな意志が込められた言葉に、青龍は押し黙る。


「青龍!お前には申し訳ないがここで足を止めるわけにはいかない!お前がそれを許さないというのなら仕方ない!」


突然雲行きが怪しくなる。


『あ、ちょっと待って、少し考えさせて?』


「よし、戦おう、青龍!」


『聞いてる!?』


マイは全て聞き流し剣を構える。背筋を正し前を見つめるその姿は彼女自身の真っ直ぐ過ぎる心を現しているようだった。


「私は勇者一行のひとり、剣士マイ、いざ参る!」


マイは地を強く蹴り突っ込んだ。


この時、実はマイにはボドーの能力が入れ替わっていた。格闘家ボドーの筋力で力強く蹴った勢いは凄まじかった。


まさに俊足。それはエデンの全力すらも超える目にも止まらぬ速さだった。


それに一番驚いていたのはマイ自身だった。


「うあああああ!?」


マイは予期せぬ速さにどうすることもできず青龍に顔面で突っ込んだ。


『ぎゃん!!』


「ぶ!!」


マイと青龍は痛み分けとなった。


しかし、それにより、マイの真っ直ぐな気持ちは青龍に届き、落ち着きを取り戻させることができたのだった。


そこに虚な顔をしたエデンとボドーがゆらりと参上する。


「…あのね、何故かこのダンジョンから出れないの。もうお腹減って死にそう。もうさ、そんなに大きいなら少しくらい分けてくれてもいいよね?」


「マイが二人、いや、三人かな?これなら一人いなくなっても大丈夫だよなぁ?」


二人して物騒なことをのたまう。マイと青龍はぞっとした。


ダンジョンから出られなかったのはダンジョンのボスである青龍との『満足するまで付き合う』という約束によるものだった。



 勇者一行は青龍と改めて約束する。


勇者一行は魔物と人間が仲良くなれるように尽力する。それが叶った暁にはこのダンジョンを解放し、人と魔物が交流のできる場所とする。そういった約束を交わした。


青龍は満足げに笑った。そして、目を閉じ念じる。


すると青龍の色が収束されていき、青い雫のような宝石が出現する。それと同時にダンジョンの能力の入れ替わりが解けた。


『それが能力交換の魔石だよ。ここで待ってるからちゃんと返しにきてね。』


青龍は青空のように美しい色を失い、白い龍となった。これこそが、ダンジョンの核でありボスの力の核。マイはそれを両手で握りしめる。


「ありがとな白龍、大切にする!」


『ちゃんと返してね!?』


勇者一行は能力を自在に入れ替えることができる魔道具、『能力交換の魔石』を手に入れた。







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