6話 ユリ一行① モンスターペンギンの群れ
その頃、ユリ、ユーキ、モンペンら一行は精霊『スコール』の神殿を目指していた。移動の間、ユリはモンペンが引く馬車ならぬ鳥車の中に押し込められていた。
ユーキが一日中モンペンの手綱を操り続けている。少し休ませたい。それにこのまま何もしなければ何の役にも立たないただの雑魚である。
「ユーキ、疲れませんか?よければ替わりますよ。」
「問題ない、休んでろ。」
「…休み過ぎて疲れてきました。」
「疲れたのか、休んでろ。」
「……休むのに疲れました。」
「そうか、休んでろ。」
「………。」
取り付く島がない。
赤い雨の時にあまりにも情けなく取り乱してしまったから彼を失望させてしまったのだろうか。
「…役に立ちたい…。」
ユリは落ち込みながらも挽回する術を探した。
キキー!
「わ、痛いっ!?」
鳥車が突然急停車する。ユリはその勢いで鳥車の壁に頭をぶつけた。
「ど、どうしましたか!?」
ユリが鳥車から顔を出すとモンペンが足元を見つめている。
そこにはたくさんの鳥の足跡があった。モンペンの足の形に似ている。
「あ、これってひょっとして、モンスターペンギンの群れじゃないですか?」
ーーモンスターペンギンって俺か!?
「そうですよ、モンペンの家族かも!せっかくだから追いかけてみましょう!」
一行はモンペンの家族の群れなのか確認するため、その足跡を早足に追った。
一行は群れに追いつく。それは白と黒のモンスターペンギンの群れであった。刺激しないように遠くから観察する。
「わぁぁ、モンペンに似てる顔がいっぱいいますね!」
虚な目、おもちのようにふくよかな体、どれもモンペンに酷似している。モンペンの家族で間違いなかった。
ーーやったー、俺の家族だー!
「良かったですね!どうぞ行ってきてください!」
ユリは明るく送り出したが、モンペンが群れに近寄っていくのをみてはっとする。モンペンは自分の群れを探すため自分達と一緒に行動している。ひょっとしてこれでお別れなのか。
「あ…モンペン…。」
モンペンを呼び止めようとしたらユーキに「ユリ」と制される。
自分達かモンスターペンギンの家族か。それはモンペンが自分で選ぶことだった。ユリではない。
「…行ってらっしゃい。」
ユリは離れていくモンペンを寂しく見送った。
◆
モンペンは家族の群れの中に入ってみた。
しかし、家族達はもぺっとそれぞれ宙を見つめており反応がない。
ーーあれ、俺の家族だよな?俺の家族で合ってるよな!?
あまりに反応がないためモンペンは心配になる。
この時、家族達もまた突然現れたモンペンを処理できずに困っていた。やがて群れはお互いに助けを求め合う。
ーーこいつ誰だ!?
ーーあいつじゃないか!?
ーーあいつって誰だっけーー!?
ーー忘れた!ま、家族でいんじゃね?
ーーだな!
家族達は適当に処理を終える。モンペンを家族と認め毛繕いを始めた。モンペンはようやく家族団欒としほっこりとすることができた。
しばらくすると、群れが移動を始める。モンペンは着いて行こうとして止まる。ユリ達のことを思い出したのである。
ーーおい、白いお前、逸れるぞ!
家族に声をかけられたがモンペンは首を振る。家族と会えたはいいがユリ達とも離れたくなかった。
ーーごめん、俺友達ができたんだ!人間の!そいつらとも一緒にいたい!
もぺ?
しばしお互いの時が止まる。
やがて、家族達はモンペンの言ってることを理解した。
敵である人間の味方をしようとしていると。
モンスターペンギン達は牙も爪もない不器用な魔物であるため、人間は餌であり脅威である。殺さなければ殺される。モンスターペンギン達は人間を集団で食べると同様に、人間にたくさんの家族を殺されていたのである。
それぞれがモンペンを威嚇し始める。
ーーお、俺の友達は良いやつだ!良いやつなんだ!
しかし、家族達にモンペンの声は届かない。自分を人間と同様に敵と見なしてしまっていた。
モンペンはその場から逃げ出した。
(どうすれば、俺はどうすればいい!)
逃げ去る弟の背中をつぶらな瞳で静かに見つめる、一匹の黒いモンスターペンギンがいた。
モンペンはユリ達の元へ帰ってきた。
「モンペン、お帰りなさい。」
ユリがモンペンに満面な笑みで抱きつく。まるで家族のようだった。
しかし、本当の家族には敵対されてしまった。人間とモンスターペンギンの家族達両方と仲良くすることはどうしてできないのだろうか。
モンペンは家族達の敵を威嚇する形相を思い出しては首をぶんぶんと振る。
「お前も悩むことがあるんだな。」
モンペンはユーキに頭を撫でられる。気持ちいいが胸はざわついたまま。ほっこりとはならなかった。
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