5話 勇者一行① トピアの冒険団

 エデン、マイ、ボドーら勇者一行は赤い雨の対策本部である『トピア』という街の冒険団へ来ていた。緊急会議が行われるとのことでエデンのみ参加することになっている。


(うえ〜会議やだなぁ〜。)


エデンは会議が嫌いだった。ダラダラと情報が飛び交うばかりでまとまらない。能率の良い方法とはどうも思えないのである。


エデンは渋々と会議の部屋に入る。


「えっ、グレイ?」


「よう、エデン、久しぶりだな!」


席から立ち上がり近寄ってきたのはアヴァロンの王国の王子グレイであった。


「なんで他国の王子である君がここにいるの。アヴァロンの王国はどうしたの?」


ここはアヴァロンの隣の国である。その問いにグレイは辛辣な表情となる。


「…俺の国も赤い雨に暴れられてな。たくさんの国民が石化してしまったんだ。我が王国を救う手立てを探しに俺はここにいるんだよ。」


「シロナちゃんは?」


「シロナは今はここにはいない。冒険団メンバーと共に周辺の地域を回ってるはずだ。」


赤い雨はアヴァロンから隣国へ移動してきたのだろうか。なんにせよグレイ達と協力して赤い雨へ立ち向かうのは心強くも嬉しいことだった。


「そっか、君達最強の兄妹がいるなんて心強いよ。よろしくね、グレイ。」


「おう、頼りにしてるぜ、エデン!」


エデンとグレイは束の間再会を喜び合った。



 時刻になり、会議が始まる。


赤い雨は動向を見るに人口の多い街を襲っているようだ。犯人は石化の精霊『スコール』を宿しており、魔物である可能性が高い。


冒険団のメンバーは雨に当たらないように雨具を着て周辺の街に散らばり、赤い雨の注意勧告を行う。赤い雨に遭遇した場合、戦闘よりも人々を避難させることに尽力する。


赤い雨が通った後、石化してしまった人々は壊れることのないように建物の中へ速やかに移動する。


そして、精霊『スコール』の対抗策として、それよりも上位の精霊を宿すことができる魔力SSの少女を探し出す。


以上のことを話し合ったところで、エデンが意見する。


「その少女って魔力はあっても魔法の才能はないらしいじゃん。上位の精霊を宿せても制御できない。他の方法を考えるべきだよ。」


冒険団の魔道具担当マ・ドーグ氏が口を開く。


「いえ、精霊を相手とするならばそれよりも上位の精霊にて対抗するより手はありません。『能力を自在に交換できる魔石』とやらを使えば才能は問題ないはずです。」


「はぁ?聞いたことないんだけど。どこにあんのさ?」


「わかりません。勇者様ご一行に探していただきたいと思っております。」


「はぁ?この状況で僕らに魔石探ししろと?」


マ・ドーグ氏は泣き始めた。


エデン自身に自覚はないが、エデンは魔王ディーンの魔法だけではなく凄みもしっかりと継承しているのである。


場の温度が下がった時、グレイが「落ち着け」とエデンを宥める。


「エデン、焦る気持ちはわかる。だが、その少女を精霊スコールと戦わせ生き延びさせるためにも必要なことだ。彼はお前ら勇者一行なら在処のわからない魔石でも迅速に見つけ出せると期待して頼んでるんだと思うぜ?」


マ・ドーグ氏は泣きながら激しく頷く。


「…むぅ。」


エデンは口をつぐむ。確かに早く解決したいという焦りはある。でも、それは多くの国民が犠牲になっているグレイも同じはずだ。そんな彼の言葉を無碍にはできなかった。


「いいけど、その魔石が見つかったらその子の魔力SSをもらって僕が上位精霊を宿して戦うからね。」


エデンの言葉に場が騒然とする。


精霊を宿すというのは大変危険なことである。魔力が足りなければ肉体が滅び、魔法の才能がなければ精神が滅ぶことになる。


上位の精霊となると魔力SSと十二分な才能が必要となる。正直それでも不安なくらいであった。


冒険団は人々が希望を見出している勇者の存在を失うわけにはいかなかった。


しかし、エデンも引き下がらない。自分を救ってくれたユリの命がかかっているのである。


エデンも冒険団も譲らず30分が経過する。そんな収集のつかないこの場を収めたのはグレイだった。


「ああもう、わかったわかった!考慮する、他の方法も考える、はいこれでいいだろ!解散!」


そのように、それぞれ不平不満はあったが半ば強引に会議は終わりとされた。



 結局エデン達は魔石探しを押し付けられた。


文句を言おうとすると会議のメンバーは蜘蛛の子を散らすようにさっとはけていった。


やっぱり会議は嫌いだ。口をへの字に結んでいると、会議が終わるのを待っていたマイとボドーが笑顔で近寄ってくる。


「不満なようだなエデン!まるで場違いにも宝探ししろと言われたような顔だ!」


「ん、エデン?いなかったな?会議はどうしたんだ?」


相変わらず独特なテンポの二人にエデンは困ったように笑う。


「…やるしかないか。行こう、マイ、ボドー。」


一行の足取りに迷いはない。


実のところ、エデンには能力を自在に交換する魔石の在処に心当たりがあった。


勇者一行は『転移』の魔法でその場所へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る