4話 合流
赤い雨から離れた街の宿、大部屋にて。
ユリ一行と勇者一行は合流し情報共有をすることになった。
ユリは部屋の隅で震えている。赤い雨、石化した人々、ユーキの腕の切断、エデンのパンツ姿。それらはユリのトラウマとなってしまっていた。
顔色が悪いためかユーキに寝るように促されたが、一人だけ輪から外されるのは避けたかった。雑魚でも何か役に立ちたい。頭から布団を被りシェルター代わりにしてユリも参加することにした。
エデンが冒険団から聞いた情報を話し始める。
「あの赤い雨は石化の精霊『スコール』の力だよ。」
精霊の力とは魔法より強力なもので、使いようによっては災害級な脅威にもなり得る。精霊が封印されている神殿は隠れているため見つけるのも攻略するのも困難であった。しかし、赤い雨は現に活動をしている。何者かが精霊『スコール』を宿し人間を襲っているのである。
エデンの話では赤い雨が活動を始めたのはここ最近のことであるらしい。襲われた街はほぼ壊滅し、生き残った人々はほとんどいない。
則ち、ユリ達が滞在していた『ガーデン』の街も同様に助かった者はいないということである。
ユリはショックを受け、布団の中にさっと身を隠した。自分達だけが助かった。そのことに強い自責の念を感じたのである。
「モンペンは雨にあたっても石化しなかった。赤い雨は魔物にはきかないのか?」
ユーキがユリの思っていた違和感を代わりに聞いてくれる。
「スコールは石化の対象種族を一つ選ぶことになるからね。モンペンは魔物だったから助かったんだと思うよ。」
人間を選択するあたり魔物の仕業なのだろうか。その犯人を見つけ止めることが赤い雨の対処となりそうである。
「それでね、ユリちゃんのことだけど…ムグ!?」
エデンが何かを言おうとしてユーキに顔を掴み上げられる。
「…無性に鍛錬をしたくなった。勇者、付き合え。」
「ムガ、モガ、モガガガガ!」
ユーキはエデンを引き摺り部屋から退出する。呆然としたユリとマイ、ボドー、モンペンが部屋に残された。
不意にマイがユリの布団に入ってくる。
「ユリ、つらかっただろう!よく最後まで話を聞いたな!偉いぞ!」
「っ!」
ユリはマイの胸でもう一度だけ泣いた。モンペンとボドーもつられて大泣きしたのだった。
◆
エデンはユーキに宿の外に連れ出された。
「こんな時に鍛錬って…君って本当に脳筋ゴリラだよね。」
「天然ザルに察しろと言っても無駄だろうからな。で、ユリのこと何かわかったのか?」
「あ、うん。冒険団は魔力SSであるユリちゃんを探してる。スコールに対抗できる精霊を宿そうとしてるみたい。」
ユーキが瞬時に苦虫を数匹噛み潰した表情を浮かべる。
「でも、おすすめはできない。ユリちゃんは魔力SSだけど魔法を使う才能がないからね。精霊を宿せても従える力がないから精霊に精神を食われかねない。」
「…それを知ってお前はどうする?勇者としてユリを冒険団に突き出すのか?」
エデンは思わず「あ゛?」と低い声を漏らす。勇者の仮面がうっかり外れ素が出る程、あまりに不愉快だった。
「…斬り刻むよ、ユーキ。僕は勇者だけど君達の友人だ。そんな真似、するわけがないだろ。」
しばらく睨み合った後、ユーキが肩の力を抜く。
「…今のところは信じよう。だが、このことはユリには言うな。」
「?」
エデンはその真意がわからずキョトンとする。
「自分が犠牲になれば人々が助かる。そんなことを知れば何をしでかすかわからないからな。」
ユーキは深く深くため息を吐いた。
一同は次の日の昼まで休み、二手に別れ行動することを話し合う。
ユリ一行は暗躍するチームとして、アルマの記憶を頼りに精霊『スコール』の神殿に行き、犯人の手がかりを調べることにした。
勇者一行は正当なチームとして、冒険団と協力し赤い雨の対処を試みることにした。
「ユリ、あまり無理するなよ!お前は器用だけど女の子なんだからな!」とマイ。
「ありがとうございます!マイさんも気をつけてくださいね!マイさんは強いけど女性なんですから!」とユリ。
「モンペン、お前大丈夫なのか!?本当に大丈夫なのか!?」とボドー。
ーーボドー、お前は大丈夫か!?本当に大丈夫か!? とモンペン。
「じゃあね、ユーキ。僕に斬られないように精々頑張りなよ。」とエデン。
「またな、エデン。お前も殺されない程度に精々励むんだな。」とユーキ。
ひとつの脅威を前に、ユリ一行と勇者一行はそれぞれ逆の方向へと旅立っていった。
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