3章 ユリ一行と勇者一行編 赤い雨の謎

1話 ユリ一行と勇者一行

 魔王との戦いが終わった後、ユリ、ユーキ、モンペンらユリ一行は、エデン、マイ、ボドーら勇者一行と友好関係になった。


勇者一行とはあるダンジョンで手に入れた通信のできる魔道具を一つずつ持ち、離れていても連絡を取り合うことができるようになっている。


魔道具は元はハートの形をしていたが割れてしまっていた。ユリが器用に修理しなんとか通信機として使えるようにすることができた。ユーキはそれを手に持っては何故か地面に叩きつけようとするため、壊されないようにユリが鞄に入れて持ち歩くようにしている。


 

 ユリ達一行は色彩豊かなお花で飾り付けられている街『ガーデン』に到着する。


『ガーデン』は可愛らしいスイーツ、花、雑貨等が店頭に多種多様に並んでおり、女性に人気のある街であった。


ーーうおお!楽しそうな街だ!お嬢!遊ぼうぜ!


モンペンが興奮するもユリは「はぁ」と投げやりな返事を返す。


この時、ユリは目の前の可愛らしい光景が些事に見える程に失意のどん底にいた。


始まりはあの時である。魔王城での戦いが終わり、ユーキを目の前にユリは寝たふりをしてみた。ユリとて18の少女である。眠りのお姫様を目覚めさせる王子様な展開を期待した。


かつーん


目覚めさせてくれたのは王子様のデコピンであった。


そして先程思い切って聞いてみたのである。自分のことを何だと思ってるのかと。


答えは単純明快。ただ一言。雑魚と。


もう何も考えたくない。もう何も期待しない。


ユリはモンペンに咥えられ街の中を連れ回されるもされるがままぼんやりとしている。顔色も悪くなってきたため、一行は着いて早々に宿に向かった。



宿にて。


「はぁ…だるいです…全てが…。」


部屋に入るなりユリはすぐにベッドに横になる。


「街を見てくる。お前はここにいろ。」


ユーキのその言葉に、ユリはむくれる。落ち込んでいるのは彼のせいである。なのに全く気にしていないようだ。


「…どーぞ。楽しんできてください。」


ユリはつんと返事を返す。


ユーキが部屋を出てしばらくした後、さっそく自己嫌悪する。


「うう…嫌な言い方しちゃいました…。でも、ユーキだって悪いですよね。もう少し優しくしてくれてもいいじゃないですかっ。」


ユリはモンペンの羽毛にぐりぐりと不快感を塗りつける。


モンペンはそんなものを塗りたくられてるとは思わず、もぺーとした後ほっこりと嬉しそうに笑った。





 街にて、ユーキは洋菓子屋の前で立ち尽くしていた。


目の前には多種多様な洋菓子。どれが何なのかは甘いものが苦手なユーキにはわからない。


顔色の優れないユリに甘いものでも与えてみようと考えていたが、選考すべき基準がわからず洋菓子を観察する。


大の大人が強面で洋菓子を睨むその姿に、周囲の人間は恐怖を感じ店から去っていく。


そうとは知らずユーキはなんとか二択に絞る。彩が豊かなものと大きく食べ応えのありそうなもの、つまり質と量である。


最終的な判断は同性である店員の女性に委ねることにした。


「どっちがいい?」


「ひぃ!?そ、それではお金の方で…!」


「?」


店員は「殺さないで」だの「婚約者がいるんです」だの挙動不審である。埒が開かず二つとも買った。


洋菓子屋をなんとか突破し、街を見て回っていた時、ある話し声が耳に入る。


「この街ならいるかと思ったんだがな。魔力SSの娘。」


「見た目の情報が18歳の癖毛ってだけじゃわかんねぇよな。」


男達の衣服に冒険団のバッジが付いている。


ため息を吐き、早足に宿に戻った。



 宿の部屋に戻るとモンペンに何かを拭っているユリの姿があった。無事宿で待っていたようだ。


ユリが罰が悪そうな顔で寄ってくる。


「…おかえりなさい。ユーキ。」


「ああ。特に変わりなかったか?」


「え?特に何も…。」


「そうか」と、持っていた洋菓子の箱を押し付ける。


「…?」


中身を見たユリは「わぁ!」と笑顔になる。


「フルーツタルトとシフォンケーキ!ありがとうございます!大事に保管しますね!」


「いや、食えよ。」


ユリは活力を取り戻したようだ。モンペンとどっちの洋菓子を食べるか議論を始める。その間にユーキは通信具を鞄から持ち出し廊下に出た。





 勇者一行、エデンは魔王であったが色々あって勇者として人々を助けて回っている。


エデンは青の魔法陣の力を持ち、基本的な魔法と破壊に特化された魔法を使うことができる。攻撃魔法については威力が強すぎるため、必要性がなければ無闇に使わないようにしている。


そんなエデン達は街の近くまで来ていたモンスターゼリーの群れと絶賛戦闘中であった。


「すごい魔物の量だ!魔力が尽きそうだ!」


マイが魔力切れを間近にしつつ魔力を込め剣を振るう。ゼリーやスライムのように実体が柔らかい魔物への有効な攻撃手段とは魔力を込めた攻撃である。


「あ、通信だ。」


エデンはハート型の通信具がチカチカと光っているのに気づきそれを手に取る。


「エデン!?それは今やるべきことなのか!?それは今本当に必要なことなのか!?」


「もしもし?」


ボドーの制止に構わず、通話を始める。


『俺だ。勇者、今いいか?』


「へぇ、ユーキが僕に連絡なんて珍しいじゃん。大丈夫だよ。どしたの?」


楽しげにお喋りするエデンにゼリーが襲いかかる。マイが肩で息をしながらそれを斬り伏せる。


『冒険団がユリを探しているようだ。何か知ってるか。』


「え、そうなの?ここしばらく冒険団に行ってなかった。調べてみるね。」


『頼む。』


「また妙なことに巻き込まれてるみたいだね。」


『……勇者。』


エデンにゼリーが束になって襲いかかる。ボドーが両手を広げそれからエデンを庇った。


『お前が言うな。』


ピシャリと言われ、ユーキの通信は切れてしまった。


「…怒られた。何で?」


青の魔法陣をユリに宿し巻き込んだ張本人は魔王ディーンであるがエデンでもある。


そのことに思い至らずエデンは腕組みをして言葉の真意を考える。その周囲でマイとボドーは全身をゼリーだらけにしながら戦い続けた。



 





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