31話 すうじつご
アヴァロンの王国を混乱に陥れた魔王の偽の宣告は、結果的に魔物に騙された冒険団は魔物と戦う王国に歩み寄る形となった。それにより人間同士の抗争は減ったものの、人間と魔物の溝は深まることとなった。
戦いが終わった数日後、エデン達一行は王国軍と冒険団の不毛な争いを阻止した礼として、グレイとシロナにアヴァロンの城へと招待されていた。
アヴァロンの城の一室にて。シロナ、マイ、アルマら女性陣が手作りの焼き菓子を食べつつ激しく紅茶を飲んでいる。
「ずずー、あなた何なのよ!なんで私の王子様の隣を歩いているのよ!なんで障害が次々に増えていかなきゃなんないのよぉ!!」
「王子様!?わからないのか!?私は女だぞ!?」
「にゃー、にゃー、にゃー、にゃー!」
女性陣のテーブルより賑やかな声とお菓子が舞っている。
エデン、グレイ、ボドーら男性陣は女性陣とは違うテーブルにておつまみを食べながらしっぽりと飲み会をしていた。
既にエデンの前には空になった瓶が3本置かれている。グレイのコレクションであるウイスキーは古い年代の物が多く、上品なコクが感じられるものばかりで止まることができなかった。
「相変わらず化け物だな。勇者殿?」
ラッパ飲みをしているとグレイに揶揄われる。
「僕は勇者じゃないよ…。僕なんかが勇者なんて言われちゃ本物の勇者がかわいそうだよ…。」
嘆くようにため息を吐く。勇者と呼ばれるのもこれで何度目なのか。冒険団達に何故か勇者と呼ばれるようになり、呼ばれ過ぎて仲間達までそれを受け入れてしまった。
こんなはずではなかった。魔王である自分が勇者と呼ばれるなど、本物の勇者である仲間達に申し訳ない。しかしながら今更魔王であることを打ち明けて離れていかれるのも嫌だった。
「ん、エデン?勇者はお前だよな?お前だからな?」
「僕じゃないったら…。勇者は魔王を倒す人のことでしょ。僕じゃないよ。」
ガタン!
ボドーの言葉を否定した瞬間、和やかな雰囲気が突然一変する。全員が席から勢いよく立ち上がり詰め寄ってきた。
「違うな。勇者は不毛な戦いを止めてくれる者だ。」とグレイ。
「いいえ!勇者は鬼神の如く強い方のことを言いますのよ!」とシロナ。
「わかってないな!勇者は強い意志を持った者のことを言うんだ!」とマイ。
「いや?勇者はすごく優しいやつのことだよな?」とボドー。
四人は全員違う意見であることに気づき、「違うだろ!」「黙れ馬鹿兄が!」「わかってない!」「なんだ!?」と口論を始める。
エデンは呆気に取られる。みんな独自の勇者像を持っているようだ。
それじゃ、勇者とは一体何なのか。勇者はどこにいるのか。そもそも勇者は存在するのか。ぐるぐると混乱する。
「にゃあ」とアルマが近くに寄ってくる。
「アルマ、君は勇者って何だと思う?」
アルマはエデンに向かってもう一度鳴いた。
◆
3ヶ月後、勇者一行が宿に帰っていく。
「すまない…。早計だったようだ…。」
マイが全身をスライム汁でずぶ濡れにして宿に帰っていく。
「俺も悪かったよな?早く助けてやれば良かったよな?」
ボドーが反省しつつ宿に帰っていく。
エデンも宿に帰ろうとしたが、魔法使いが立ち止まっていることに気づく。
「宿に帰ろう?」
魔法使いは座り込んでいる。何か悩んでいるようだ。そんな魔法使いに手を差し出し微笑む。
「行こう、アルマ。不器用に。」
「にゃあ。」
魔法使いはエデンの肩に乗り、一緒に宿へ帰っていった。
2章 勇者な青年 エデン編 完
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