30話 まおうでゆうしゃ
エデンはどうしようもなく泣き続ける。今すぐにでも魔王として死んだ方が良いのはわかる。しかし、人間としての感情が生きたいと、死にたくないと叫び続けるのである。
「生きればいい!」
両肩にばんっと手を置いたのはマイだった。
「大丈夫だ!私がいつでもお前の前を守る!お前は自分のしたいように生きればいいんだ!」
マイの真っ直ぐな目を前にエデンは縋りたくなる。
「でも、僕にはできないよ…。」
「大丈夫だからな?お前ならできるからな?」
背中にそっとボドーの温かい手が触れる。
「俺はお前の後ろにいるからな?お前がちゃんとできてるか見ててやるからな?」
ボドーは大男には不釣り合いなまでに優しい微笑をエデンに向ける。
「マイ…ボドー…。」
魔王である自分と一緒にいようとしてくれる。二人の気持ちを嬉しく思いながらも受け入れることができない。そんなことをしては二人を危険な目に遭わせてしまうことが目に見えていた。
一方で、今回のように二人と一緒なら、魔王ディーンを抑えつつもう少しだけ旅を続けていける気もしていた。
「にゃあ。」
アルマが膝の上から声をかける。自分も一緒にいるから大丈夫だよと。
「…アルマ…。」
アルマをぎゅうっと抱きしめる。アルマはこちんと固まる。
そんな動揺するアルマを他所に、エデンはあることを考えていた。
来る時、魔王を倒す勇者は、きっとアルマとこの二人だろう。
一緒にいれば、魔王に支配され暴走する前に自分を止めてくれるだろう。
エデンは神妙な顔つきで仲間達に自分の始末を託すことにした。
「みんな。僕を、よろしくね。」
仲間達は同様の顔つきで頷く。
次の瞬間、「ぶはっ」と吹き出したのは早とちりの女王、マイだった。
「エデンは天然だな!」
エデンは会話の流れにそぐわない言われに目が点になる。
「テンネン?」
「ボーとしたと思ったら意味不明なことを言ったりやったりする!そういう人間を天然と言うんだ!」
何のことを言われているかわからない。
程なくしてアルマに光の剣を突き刺さないようにディーンと体の主導権をかけて戦っていた時のことと思い至った。
あれはボーとしていたわけでない。仲間を守るべく必死にディーンと戦っていたのである。
意味不明なこととは一体。まさか、先程涙ながらに訴えていたことを言っているのか。
自分の「生きたい」という切実な訴えは意味不明なことと捉えられていた。その事実にエデンは奈落に落ちるほどの衝撃を受ける。そこにさらに追い討ちをかける男がいた。
「エデンは優しいな?魔王のフリしてでも争いを止めたんだもんな?」
「フリ?」
「魔王のフリして誰も殺さずに争いを止めたよな?ロアも見逃してたよな?」
ボドーの言葉にさらに動揺する。争いを止めるべく、正体を明かし唯一の悪党となったつもりだった。確かに誰も殺してはいない。それがどうやら魔王の『フリ』と思われてしまったらしい。
ひょっとしてこの仲間達は魔王と名乗り出た自分の覚悟を『フリ』として片付けるつもりなのか。
魔王である自分を受け入れてくれたわけじゃなかったのか。
エデンは衝撃のあまり今度こそ奈落へと落ちていく。
マイとボドーの客観的な意見も尤もである。魔王が人を殺さずに争いを止める訳がない。なのに未だに魔王と言い張ろうとしているエデンのことを微笑ましく思っているのである。
「あのね、僕は、ま「にゃあ!」
「きいて、僕は、まお「さあ次だ!」
「だから、僕は、m「ん?終わったんだったか?」
その後も一生懸命伝えようとする。しかし、全く取り合ってもらえなかった。
◆
冒険団は団長の格好をした魔物が逃げ去るのを見て、自分達が魔物に騙されていたことに気づいた。
冒険団の団長ロアは人と魔物が歩み寄る未来を見据え、多くのメンバーに信頼されていた穏やかな人物だった。
その立場を魔物に利用され、偽の魔王の宣告により、人間同士の争いへと誘導させられていた。
そして、そんな不毛な争いを死人なく止めた三人と一匹の一行に注目した。
魔王であると偽り、体を張って争いを止めてみせたその所業はまるで勇者である。
『勇者一行が現れた』
冒険団の言葉はあっという間に全地域へ広がっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます