27話 アルマの戦い②
「...マジかよ。」
グレイとシロナの雷の魔法がアルマに直撃した瞬間、グレイは思わず笑ってしまった。
この威力の雷の魔法が直撃したのなら体は焼け散るはずだった。しかし、アルマの黒い帽子だけが消し炭となり、その白い毛は焦げたそばから元に戻っている。
『回復』の魔法によって、世界最強の雷の攻撃を無効化しているのである。
「傷ついたそばから即回復してる!?嘘でしょう!?こんなの回復魔法の範疇じゃないわ!」
シロナは動揺を隠せないようである。
グレイも同様だった。それに、さっきから魔法が発動する前の魔法陣が現れていない。そのかわりあの瞳の魔法陣が光の強さを増すのである。すでに2つ以上の魔法を同時発動している。あの特殊な瞳は何個の魔法を同時に発動させられるというのか。計り知れなかった。
「はぁ...何してんですか。いちいち焦っても仕方ないでしょう。ここは『スタン』でも唱えて意識を失わてみてはいかがですか。
さあ、やりなさいッッッ!!早く早く早く早くぅぅぅ!!」
ロアの語尾は突然裏返る。一番焦っているようである。
シロナが「くそが」と言いつつ渋々『スタン』の魔法を唱えようとする。アルマの緑の瞳がそれを捉えていた。
「『スタン』...きゃあ!?」
「シロナ!?」
シロナは悲鳴を上げ体を跳ねさせる。アルマがスタンの魔法を『反射』させたのである。『反射』とは相手の魔法をよく観察しなければ成功しない高度な魔法だった。
跳ね返ったスタンに当たり、意識を失ったシロナの体をグレイは抱き止める。
「あ、これは勝てませんね。撤退しましょう。」
ロアが防壁を魔法で攻撃し始める。しかし、びくともしない。
「いぃぃぃやぁぁぁぁああああああ!!」
ロアは絶叫する。
アルマが降伏してほしいと呼びかける。
「悪いな。それはできねーんだよ。」
グレイは静かにシロナを横たえて再びアルマと対峙する。
グレイは自嘲する。歴然たる力の差があるのはすでにわかっている。勝機などない。それでも、グレイには戦う道しかないのである。
それがアヴァロンの王子であり、上級の魔法使いであり、シロナの兄であるグレイの不器用な生き様なのである。
決意を込め剣を抜く。それを上段に構えた。
『雷の剣』
剣に電撃が溜まって行く。電光が剣を眩く光らせていく。グレイの必殺の魔法である。
「殺すつもりで行くぞ、アルマ。お前が俺を止めたいと言うのなら、お前らが俺を友達だと言うのなら、お前も本気で来てくれッ!!」
アルマの瞳は少し揺れるものの、こくりと頷いた。そして片手を空へ掲げる。
『雷のボール』
猫の好きそうな名である。アルマのてての上に電撃の玉がぽんっと現れる。かわいらしいそれが徐々に大きくなり、まるで太陽のような電光と波動を放ち始める。
これがかの最強の魔法使いの本気である。グレイはそれを真っ直ぐに見据えた。
「くらいやがれええええ!!」
渾身の魔力を込め雷の剣を振り下ろす。電撃が束ねられ巨大な剣となってアルマを襲う。
アルマはそれを『雷のボール』を投げて受け止める。雷と雷の力がぶつかり合い、その衝撃により大地が砕かれ、地が舞った。
グレイの雷に特化させた力はかの最強の魔法使いと互角だった。あとは持久力の勝負だった。
グレイは持てる魔力を総動員させていた。しかし、それを『魔力吸収』の魔法が発動している状態で維持することはできなかった。
程なくして魔力は底を尽きた。対し、アルマは最大級の魔法を放ったというのにケロッとしている。
「魔力、どんだけだよ...。」
雷の剣が霧散していく。体に力が入らず、視界が暗転していく。魔力切れである。
アルマの『雷のボール』も止まり、グレイを攻撃することはなかった。アルマの揺れ動く瞳は悲しげで、戦いたくなかったと言っているようだった。
「この、不器用が...。」
皮肉を言い置き、グレイは意識を途絶えさせた。
最後まで戦いは好きではないという本心は言わなかった。
◆
アルマは強敵グレイとシロナを倒した。次にキッとロアを見る。
ロアは先程の雷の魔法がぶつかり合う衝撃により防壁に頭をぶつけすでに意識を失っていた。呆気ない幕切れにアルマはポカンとする。
すると、倒れているロアの姿に変貌が起き始め、ロアは人型の魔物の姿へと変わる。
アルマは驚愕する。その魔物は人を食べることでその人の姿に変わることができる特殊な能力を持っている個体だった。
冒険団団長はすでに殺されており、魔物が成り代わっていたのである。
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