25話 エデンの戦い②
魔王ディーンに消えるように命令された瞬間、エデンの意識が霧がかったようにぼやけていく。消えようとしているのである。
「いやだ...消えたくない...!」
エデンはそれを強く拒否する。アルマと過ごした思い出を、グレイとのお酒を飲む約束を、なかったことにされたくなかった。消されなくなかった。
そんな意志など関係ない。魔王ディーンはいつでも雑魚なエデンの人格を消すことができた。
はずだった。
「あれ?」
自分の意志で剣を振るい続けていることにエデンは気づく。
『消えろ。』
「やだ!」
魔王ディーンはもう一度命ずる。すかさず拒否する。消えることなく体を動かすことができている。
記憶、感情、意志。それを得た雑魚な人格は、もはや雑魚ではない。ディーンの支配から独立し、ひとりの人間としてここに確立していたのだった。
もう魔王ディーンの命令を守る必要はない。消されるのを受け入れる必要もない。
用済みになってもアルマを殺さなくていいのである。自分の頬が自然と緩んでいくのを感じた。安堵であった。
「そっか、僕はずっと君を殺したくなかったんだね。」
剣を強く握り直す。自分を自分にしてくれた。たくさんの物をくれた。そんなアルマに報いたい。アルマの願いを必ず叶えてみせる。そう誓いながら目の前の敵の剣を打ち払った。
その後もディーンは『消えよ』『消えてみろ』『でりーと』などと命令する。色んな言い方を試しているようだ。
その度、「やだ」「やだけど」「のー」などと拒否し変わらず兵士達と戦い続けた。
しばらくすると、兵達に後退する者が現れてきた。魔王の眼光と動きがいつまでも衰えることがない。両の剣を縦横無尽に振るうその鬼神の姿に兵達は恐れ逃げ始めたのである。
しかし、500人程の兵士はそこに残っていた。
「魔王め、遠くから攻撃しろ、数で押せ!」
矢をまとめて放たんと弓兵が横に並びエデンに向け弓を絞る。エデンは兵の中に紛れている。味方諸共攻撃することにしたのだった。
しかし、その矢が放たれることはなかった。
全ての弓が真ん中で分断されたためである。
「私の仲間に何をするんだ!」
弓を見えぬ速さで斬っていたのは、やや早とちり気味な発言をしがちな、赤毛の女剣士であった。
魔法使い達が魔法を放たんと魔力を込める。しかし、背後より峰打ちを次々に決められ、阻害されていく。
「邪魔して良いかな?良いよなぁ!?」
自信なさげな青髪の大男が確認しながら魔法使い達の前に立ち塞がった。
「...君達、誰?」
エデンは自分を援護する二人の存在に気づく。その姿に見覚えがあった。
「私はマイだ!君に男達から助けてもらった者だ!」
「俺はボドーだったよな?ペンギン達を助けてくれたのはお前だったよな?違うかな?」
赤毛の女剣士マイ、青髪の格闘家ボドー。旅先で出会った者達だった。魔王と名乗り出た自分を助太刀しようというのか。二人に向けて問う。
「二人ともわかってるの!?僕、魔王だよ!?」
「君は仲間だ!」と、マイは即回答する。
「............ん?それがどうかしたか?」と、ボドーは遅めに回答する。
テンポの独特な二人にくすりと笑う。頼りになるのにどこか抜けている、なんだか愉快な二人である。
自分が目の前の兵達と戦っている間、二人は遠距離の攻撃を仕掛けようとする兵達を倒してくれる。おかげでエデンは目の前の敵に集中することができた。
体を駆け巡る血が熱い。本気を出し続ける体は汗だくで疲労できしむ。しかし、胸に込み上げる躍動を確かに感じていた。
「なんでだろ、なんかちょっと楽しい!」
『我は全く面白味を感じないが。』
「だろうね、だって君のじゃない!僕だけのだ!」
魔王ディーンは大変白けている様子である。エデンはそれにそれ以上構わず、マイ、ボドーと連携し、残り500人程の兵士を相手に戦い続けた。
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