24話 エデンの戦い①
エデンはアルマ、グレイ、シロナ、ロアが転移していくのを見送り、ひとりその場に残る。王国軍の数は500名、それを挟んでいる冒険団も同じ程いるようだ。
王国軍と冒険団の衝突を止めるため、自分は『魔王として』この場にいる全員を戦闘不能としなければならなかった。
それぞれの軍は指揮官がいなくなったためか、混乱が生じておりすぐには動かない。
両手にある白い光の剣を握り直す。握っている手にアルマの暖かさを感じる。
この光の剣はアルマから授かったものである。重さはほとんどなく、武器を破壊し、肉を斬らずに焼けるような激痛を一時的に与え行動不能とできる魔法でできた剣。
殺さずを誓うアルマが長い年月をかけて研究し作り上げたオリジナルの魔法だった。
「この剣でだけは誰も殺しちゃダメだね。」
その剣にこの場にいる誰も殺さないことを誓う。
呼吸をひとつ吐いた後、口を引き結びエデンは駆け出す。躊躇しているなら是非もない。今の内に一人でも戦闘不能にすることにした。
「殺しはしないよッ!」
エデンは兵の中に飛び込んだ。回転するように光の剣を振るい、あっという間に10人程を斬り伏せる。
「ぎゃあああああああ!!」
「こ、殺せ、殺される前に魔王を殺せー!」
先程まで意を違えていたとはいえ、ことの発端である魔王が襲いかかってきている。目の前の巨悪の存在に二つの軍は一つとなった。
エデンに王国軍、冒険団が襲いかかる。それぞれの兵の動きは連携の取れていない単純なものとなっていた。指揮官は消え、たったひとりを1000人で倒すのである。作戦行動など無意味に思えた。
エデンは剣を振り上げた相手の懐に素早く入り、脇腹へ剣を叩きつけ、すかさずもう片方の剣で武器を破壊する。別の方向から突かれた槍を分断し、もう片方の剣で足を打つ。
その様はまるで旋風のようだった。風のように疾走しては渦のように回転した剣撃を周囲に放つ。通り道にはたくさんの人間が武器を無くし呻きながら地面に転がっていた。
しかし、斬っても斬ってもキリがない。兵は1000人近くいるのである。
「はぁ、はぁ、きついなぁ...!」
青い魔法陣を使って爆破することでもできれば、この場にいる全員など容易く瞬殺できる。しかし、今回は殺さないと決めている。殺さずとは殺すよりなんと大変なのか。
斬り、突き、はらい、武器を破壊し、流れるように兵士達を行動不能にしていった。
しかし、敵は目の前の兵士だけではなかった。
『おい、貴様』と魔王ディーンの声が頭に響く。
『魔王であると知られぬよう偽の宣告を暴けと命じたであろう。まさか自ずから名乗りでるとはな。これは我に叛逆するということで相違ないな。』
手を忙しなく動かし汗をかきつつ、背中には冷たい汗が伝うのを感じた。
「あ、あれー、魔王であると知られるように暴くんじゃなかったけ。聞き間違えちゃったかな?」
『以前にも思ってはいたが、お前は度が過ぎた間抜けなようだ。救いようがないな。』
エデンの天然な取り繕いを、ディーンは呆れ果てたようにため息を吐く。なにやら雲行きが怪しい。
「あ、ま、まって、救いようはあるよ、あるよたぶん、だから待って!」
『消えろ。惰弱な人間の人格が。』
魔王ディーンはついにエデンに消えるように命令した。ディーンはいつでも弱小なエデンの人格など消すことができるのだった。
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