23話 いっそうけいかく
アヴァロン王国の中央には『セントラル』という自然豊かな地域がある。なだらかな丘、果物がなる木々、透き通った湖など、そこでは自然の恵みを見ることができる。しかし、自然に恵まれている故に、魔物の多くがそこを住処とし、人々はそこを避けざるを得なかった。
エデン達と別れて数日後、グレイは鉄の剣を腰に下げ、妹シロナと500人の兵を率いてそこに到着する。人間が魔物より優れていることを示すため、『セントラル』にいる魔物を一掃する計画である。
「妙だな。」
グレイは訝しむ。魔物の姿が少なく、明らかに不自然だった。
「む!?」
考えていると、突如矢や魔法が王国軍に降り注ぐ。冒険団が丘の上から奇襲を仕掛けてきたのである。
「みみっちいのよ!」
『防壁』
シロナが王国軍を巨大な魔法の防壁で覆う。それにより冒険団の攻撃を防ぐことができた。
「ふふっ、今日は良い日ね!たくさんの亡骸を見ることができるなんて!」
冒険団からの明らかな敵意。シロナはとても嬉しそうである。
グレイは警戒し周囲を見渡す。これまで冒険団とは幾度となく争ってきた。今日まで制圧できなかったのは冒険団団長ロアの策略によるものだった。
「ロアの姿が見当たらねぇ。不気味だな。」
後ろを向くと遠くに何かが輝く。それは防壁をすり抜け、冒険団を相手するシロナの背後に迫った。
魔法が通じない矢。魔封じの鉄でできた矢である。
「シロナ!」
「え、兄様?」
グレイは妹を庇った。
「「!」」
しかし、その矢がグレイを貫くことはなかった。
魔封じの矢が空中でぴたりと止まり、そこから徐々に姿を現した人物がいた。
「エデン!?お前どこから現れた!?」
姿を現したのはエデンであった。エデンが魔封じの矢を凄まじい反射神経でキャッチしていたのである。
王国軍の後方に隠れていた冒険団が姿を現す。そこには団長ロアの姿もあった。挟み撃ちをする策略だったようだ。
「やれやれ、放たれた矢を掴むとは思いませんでした...あなた本当に人間ですか?」
ロアはため息を吐く。テンションが下がっている様子である。
エデンは高らかに叫んだ。
「魔王だよ!!」
ドゴォォォォン!!
瞬間、天に届くほどの火の柱が至る所に上がる。さらにエデンの周囲に白く輝く光の剣が二本現れ、エデンはそれを両手に装備した。
王国軍、冒険団から悲鳴が上がり混乱が広がって行く。宣告を出した張本人が目の前にいるとなると王国軍と冒険団で争っている場合ではなかった。
「者共、落ち着きなさい!エデン様が魔王なわけないじゃない!私の王子様なのよ!」
シロナが兵達を落ち着けようとする。しかし、実際に常人離れした魔法を目の当たりにしている。両剣を装備したその姿はまさに鬼神だった。兵達の混乱は増していき収集がつかない。
「あああああああああ!?ああああああああ!?」
ロアはただ絶叫している。
そんな混沌とした状況の中、グレイはまじまじとエデンを観察していた。何かが足りなかった。
「エデン、アルマはどうした?」
「にゃあ!」という返事が返ってくると同時に、グレイ、シロナ、ロアの足元に『転移』の魔法が光る。
「「「!?」」」
「アルマならここだよ。」
エデンが服をまくるとドテっとアルマが地面に落ちた。その小さな手には魔法陣が光っている。
グレイは気づく。
エデン達は魔法で姿を消して待ち伏せしていた。魔封じの矢を受け止めたために、その魔法が解け突然姿が現れたように見えたのだと。
上がった炎は最強の魔法使いアルマの魔法によるただの演出。エデン達は魔王の『フリ』をするつもりなのだと。
エデンとアルマはどちらの味方もせず王国軍と冒険団の双方を戦闘不能とさせ、この争いを止めるつもりなのだと。
アルマはここから離れて、グレイ、シロナ、ロアを。エデンはここに残って、王国軍と冒険団を。
まさに、『止めたければ力づくで止めろ』を実行しようと言うのだ。たった一人と一匹で。
「またね、グレイ。」
「エデン、また一緒に酒」
『転移』
アルマの『転移』の魔法により、グレイとシロナとロアは別の地点へ移動させられたのだった。
エデンは魔王のフリをしている。その一点の推察だけは外れていることを、エデンを友人と慕うグレイには思いもしなかった。
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