22話 はなしあい
グレイの部屋にて
「く...なかなかやるね!あ、アルマ逃げて、アルマ、そこに地面はないよ、アルマァァァ!」
「にゃああぁぁぁ...!」
「ふはははははは愚かだな!かの最強の魔法使いもその程度か!?」
エデンはアルマとグレイと共にお菓子を食べながらゲーム対戦をしていた。エデンとグレイはそれなりの戦いをしているが、アルマは瞬殺されていく。否、自滅していく。
一通りゲームで遊んだ後、二人と一匹はウイスキーで飲み会を始める。アルマは水割りを一舐めしただけで潰れて寝てしまった。
「あらら、アルマ寝ちゃった。それじゃ、君の分は僕がもらうねー。」
アルマを膝に乗せ、彼女の水割りをすいっと一気する。
「ぷはー美味しっ!でももっと濃い方が好きかも。」
自分のウイスキーロックを一気する。この熟成された旨味と香りが堪らない。喉を通る熱さもクセになる。頭の中ではディーンが『美味である。もっと飲め。』と喜んでいる。
エデンはグラスを空にしては並々と注ぎ飲みまくる。
「こいつはやべぇ。人間じゃねぇ。」
グレイはドン引きしていた。
しばらくの間、エデンはグレイと話をする。アルマの失敗談、王子の苦労、妹の困った話、など。他愛のない二人の話はニ時間程続いた。
「あれ、僕なんでここに来たんだっけ?」
「いや、忘れるなよ。話したいことがあったんだろ?」
程なくしてここに来た目的を思い出しようやく本題である魔王の宣告が偽物であることを話す。
「そうか、エデン。話してくれてありがとな。だが悪い。魔物を一掃する計画を止めるつもりはないんだ。」
「それはどうして?」
「あの宣告の正体がわからない。偽物であるという証拠がない。今後何も起きないという保証もない。そうだろ?」
「...うん、君の言う通りだよ。」
しゅんと肩を落とす。やはり魔物を討伐しようとする王国軍とそれを阻もうとする冒険団の衝突を止めることはできないようだ。
「何でお前が落ち込むんだよ!」とグレイに背中を叩かれる。
「別にいつかは魔物とケリをつけようとしていたんだ。それがあの宣告をきっかけに早まっただけのことだ。気にするんじゃねぇよ。」
「なんで君達の王国は魔物を殺すの?宣告が出る前から続けてたんだよね?」
「ん、ああ...。この国は自然が豊かだからな。魔物はそれを求めて国民を害していく。俺たちは国民を守らないといけねぇんだよ。それが俺達、王国の義務だ。」
殺されるから殺す。それは王国と魔物のどちらかが果てるまで続くのではないか。自分がアルマを守りたいように、グレイにも守らないといけないものがあるようだ。それもたくさん。
「俺達は魔物の討伐を止めるつもりはない。止めたければ力づくで止めるんだな。」
違和感を持つ。どこか止めてほしいような言い方である。
「グレイ、君って本当は...」
バン!!
言いかけた時、グレイの部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
部屋に入って来たのはグレイの妹シロナである。押さえこもうとする侍女二人を引き摺りながらここまで来たようだ。
シロナは侍女二人を足に引いたまま優雅にお辞儀をする。
「エデン様、我が城へようこそいらっしゃいました!こんな馬...兄の部屋ではなくて私の部屋でお食事でも致しませんか?」
シロナは実は料理上手である。エデンの胃を掴み我が物にする自信がシロナにはあった。
エデンはグレイの部屋を改めて見渡す。ゲーム、プラモデル、漫画、小説、酒と色んな物が揃っている。
それら好奇心旺盛なグレイの宝物は男子エデンの心をすでに掌握していたのだった。
「僕、グレイがいい。」
「...ッ!?」
エデンはシロナではなくグレイの部屋を選んだ。それはシロナのプライドを深く傷つけたのだった。
グレイは勝ち誇った顔をするが瞬時に青ざめた顔になる。シロナの周囲にバチバチと電光が走り始めたのである。
シロナは電撃を纏いながら兄の胸ぐらを掴む。
「くっっそがぁぁあああ!!兄様の何が良いのよ!?兄様の何処が私より優れてると言うのーーー!?」
「ぐああああお前より優れていてすまんシロナァァァアア!!」
「黙れくそがぁぁあああ!!」
グレイとシロナの一方的な兄妹喧嘩が始まる。エデンはそれを見て笑った。
◆
談笑は絶えず、気がつけばとっぷりと夜となっていた。グレイはエデン達を城の出口まで見送る。
「エデン、ありがとな。今日は本当に楽しかったぜ。」
「うん、僕も楽しかった。ありがとねグレイ。」
「明日からはまた敵同士だな。」
「そだね、じゃあね。」
エデンは寝ているアルマを抱っこしてあっさり離れていく。
「馬鹿、否定しろよッ...!」
拳に力が入る。ショックだった。ゲームで遊んで、とりとめもないことをだべって、酒を飲み交わす。そんなことをまたしたいと思うのは俺だけなのか。
「エデン、俺達、敵同士だし殺し合いもするけど...友人にならないか!?」
気がついたら背中に向かって叫んでいた。殺し合うのに友人だなんて馬鹿げた話である。
それに対し、エデンは爽やかな笑顔を見せる。そして久しぶりに口癖を言うのだった。
「いいけど。」
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