20話 涙



 アルマはエデンと共に冒険団の拠点から『転移』で脱出した後、すぐにエデンの足を『回復』の魔法で治療した。


冒険団拠点にて色々な出来事があったアルマ達は流石に疲労が溜まっていた。ひとまず街から離れた森の中で野宿することになる。


「アルマ、おやすみ。」


エデンは横になる。自分が大勢の命を奪っていたことについて何も聞かないでいてくれるようだ。


その優しさは今は苦しかった。そろそろエデンと別れる頃合いではないかと考えていた。それなのにこんなことされると余計に別れ難くなる。


その時自分の本心に気づく。エデンの旅に着いて行こうとしたのは彼のためではなく自分のためだったのだと。ひとりぼっちの旅に疲れて誰かと一緒にいたくなっただけであると。


そんな自分勝手な理由で一緒にいる結果、エデンの旅は難局し、彼を苦しめることとなっている。


そろそろ別れないと。


なのに、いざ別れを告げようとすると言葉が出ない。


ポタ


かわりに涙がまた出てきてしまった。エデンが横になりながら手を伸ばし頭を撫でてくれる。


「アルマ、それ以上自分を責めないで...。君は十分向き合ってると思うよ...。」


ぽかぽかとした優しい暖かさにどんどん涙が溢れてしまう。


その夜、アルマはエデンの胸で泣き続けた。


不器用な自分だけじゃどうしようもなくて泣くしかなかった。


それでも、エデンがこんな自分のそばに変わらずいてくれることに内心安堵していた。


そして、ひとりぼっちにしてしまった彼を想った。


今の自分と同じように誰かが彼のそばにいてほしい。そう願わずにはいられなかった。



 次の日の昼頃、アルマは腫れぼったい顔をしていた。散々泣いた後疲れて熟睡し、こんな時間帯となってしまった。


「餅?」


バリッ!


失礼であるとエデンの顔を引っ掻く。アルマとて女性である。言って良いことと悪いことがあった。


「いっ!?なんだ君か。痛いよアルマ。」


「にゃー!にゃー!」


女性の扱いがなってないとぷんすこ怒る。「ごめんごめん」と宥めるように頭を撫でられた。



 落ち着いた頃、アルマは空を眺めていた。


これからどこへ行けばいいのかわからない。アヴァロンの王国にある街は大体回ってしまった。街を回っても人に聞いても魔王の宣告の正体はわからないままなのである。


ふと王国軍と冒険団が戦争をする風景がよぎる。それももう止める手段がない。


止めたかったな。ぽつりと呟いた。


「アルマ、南にあるアヴァロンの王都へ行ってみようか。王国軍が止まれば、冒険団も止まるはずだよ。」


エデンの声には迷いは感じられない。


対照にアルマは迷ってしまう。確かにそこにはまだ行っていない。しかし、それは王国軍の拠点に乗り込むということになる。グレイとシロナと再び戦うことになるのは明白だった。


前回も今回も不器用な自分の失敗で捕まっている。自分が一緒にいてはまた失敗してしまう気がしてならなかった。


「大丈夫だよ。僕が君を守るから。」


ドキッとしてエデンを見る。エデンは真っ直ぐアヴァロンの王都の方角を見つめている。


「行こう、アルマ。王国軍と冒険団の衝突を止めるよ。」


魔王の宣告は?と尋ねる。


エデンは「せんこく?」とキョトンとした後、思い出したような顔をする。


「宣告、ああ、魔王の宣告ね。あ、忘れてない。忘れてないよ。忘れてないって。大きい声出さないで。」


頭を抱えて独り喋っている。この様子は完全に忘れていたのだろう。今は魔王の宣告より王国軍と冒険団の衝突が気になるようだ。


程なくして、エデンが自分の小さな呟きを汲んでくれたことに気がついた。


「どうしたの、早く行くよ。」


「にゃ、にゃあ...。」


エデンがしっかりとした足取りで前に進むのに対し、アルマはその斜め後ろをギクシャクと歩いた。











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