19話 アルマ
※暗い話注意です。
アルマは常軌を逸した魔法の才能に恵まれた野良猫である。彼女に使えない魔法はなく、魔力も桁違いに高かった。
しかし、強くて不器用だったために、最強の魔法使いは少し頭をひねればさくっと利用することができた。
困ってる人は放っておけない善人故である。ある時は魔物の討伐を強いられ、ある時には復讐に用いられ、ある時は戦争に駆り出され、そうしてアルマは魔物も人間もたくさんの命を奪うこととなったのである。
なんとかしようと抗った。しかし、どう頑張っても不器用なことにそれを変えることはできなかった。
そんなアルマが殺さずを誓ったのはエデンに会う5年程前、器用な少女との出会いによるものだった。
アルマはその少女と苦手なことを補い合いながらある神殿を攻略した。
少女は自分の魔法を見ては大喜びし、利用するわけではなく友達として接してくれた。その冒険はとても楽しいものだった。
もっと一緒にいたい。そう思わずにはいられなかった。しかし、その少女は『忘れ物』を残して目の前から消えてしまったのである。
アルマはその忘れ物を今でも自分の隠れ家に保管している。これを持っていればあの少女にまた会える。そう信じて。
その時には何も恥じることのない最強の魔法使いになろう。
それからは殺さずを強く誓い償いながら、そして、彼女とまた会える日を心待ちにしながら、旅を続けるのだった。
殺さずを誓う自分を強く責めるようになるのは、今から3年前、夜の国での出来事だった。
その国の王は大勢の国民を理不尽に虐殺し、その国民は生気が感じられず助けを求める者はいなかった。
王を止めるべく城へ向かうことにした。
王をできるだけ刺激しないよう、あの少女の姿を借りて王の目の前に『転移』する。
それは他者の攻撃に敏感になっていた王には十分過ぎるほどの刺激になるとは、不器用なアルマにはわからなかった。
「ひぃぃ!?貴様何者だ!?ついに余を殺しにきたのか!?そうなのだな!?そうなのであろう!!」
王は非常に興奮している様子である。その王が精神が壊れ極度の被害妄想の状態であることはこの時のアルマには知る由もなかった。
懸命に説得を試みる。しかし、元々喋るのが苦手でありうまく伝えることができない。
「言葉も通じぬのか!この人間の皮を被った化け物がッ!!」
その言葉は深く刺さった。否定できなかった。自分は人間ではなく大勢の命を奪った化け物だったから。
固まるアルマの背後に剣が振り下ろされた。
「成程。性根だけではなくついに目も腐り落ちたか。」
剣同士が合わさる甲高い音が響く。頭上に振われた剣を一人の兵士が剣で受け止めていた。
その兵士はひとりであるにも関わらず大勢の兵士の剣を軽々と捌きながら王へ迫る。
「貴様!?余の兵ではないか!?不敬である!余はソルの国の王であるz「それがどうした。」
男の声には迷いも躊躇いもない。王は「ふひぃ!?」とその場に腰を抜かす。
「お、お主、まぁまぁ使えるようだな!よし!この上ない名誉をやろう!余の騎士になr「迷惑だ。」
男は即答し王の首を斬り裂いた。
周囲に悲鳴とざわめきが起こる。アルマは呆然としていた。
「お前に用はない。さっさと消えろ。」
男は振り返らずに声をかける。我に帰り『転移』の魔法で自分とその男を脱出させた。
その時、自分と男を別々の場所に転移させていた。
自分のせいで王を殺してしまったその男が、今どんな顔をしているのか、そしてこの先どうなってしまうのか、知るのが怖かった。逃げたのである。
その出来事はアルマに悟らせるには十分だった。
自分が殺さないために誰かが人を殺す。
自分が不器用なために誰かが不幸になる。
そして願わずにはいられなかった。
生まれ変われるならあの子のように、魔法の才能じゃなくて器用に生きれる力が欲しいと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます