18話 牢屋にて

 エデンとアルマは冒険団の地下にある牢屋に向かい合わせに入れられていた。エデンは全身を縄で拘束され、アルマは首に魔封じの鎖が巻かれ繋がれている。


「アルマ、大丈夫?首、苦しくない?」


アルマは俯いたまま見ようとしない。


本当は聞きたいことがいっぱいある。しかし、このまま顔を見せてくれないのは嫌だった。


「昔のことなんて関係ない。今の君は何も殺してない。君のおかげで大勢の命が助かってるはずだよ。そんなに自分を責める必要はないと思うよ。」


できるだけ優しく話しかける。アルマが少しでも楽になるようにと。少しでも元気になるようにと。そう願いながら。


しかし、アルマが大勢の命を奪っていたことだけではなく、殺さずを誓っている自分をも深く責めているとは、エデンには知る由もなかった。


最強の魔法使いは声をあげて泣き始めた。


言葉が出ない。彼女が泣いているところを見る度胸が苦しくなる。


(なんで…君が泣くの?)


わからない。彼女の過去に何があったのか。どうして殺さずを誓っているのか。


そこにロアが部下を連れてやってくる。


「アルマ、我々に協力しなければそこの男を拷問します。」


こんなに苦しそうなアルマにさらなる追い討ちをかけるというのか。ロアに強い嫌悪感を抱く。


「あのさ、今取り込み中なのわかんないの?死んで出直してきたら?」


「あなた馬鹿ですか?自分の立場がわからないのですね。」


ロアが部下に何かを命ずる。部下が剣を抜く。


その剣がエデンの右大腿部を縄の合間から刺し貫いた。


「うッ!?ああッ!!あああぁぁ...!!」


突然の激痛に悶える。


「にゃああああ!」


アルマは首に鎖を食い込ませ、バタバタとこちらに向かおうとする。


「どうですか?アルマ?彼がかわいそうだと思いませんか?あなたが首を縦に振りさえすればすぐ楽になれますけど?」


ロアはテンションが上がっているようである。


「あぁぁ...なにそれ頼む態度じゃないんだけどッ...!」


痛みを堪えなんとか口にする。


「それでは改めますね。」と、ロアはコホンと咳払いをする。


「我が隊に下れ。さもなくばこの男を殺す。」


ゴリィ… グチグチグチグチッ


「ア゛アアアアアアアアアッ!!ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


エデンは絶叫する。大腿部に刺さっている剣が抉るように動かされているのである。


右足の耐えがたい激痛に冷や汗が噴き出す。絶叫が止まらない。全身がそれから必死に逃れようとするが拘束によりそれが叶わない。まるで荒れ狂う芋虫だった。


「ぶっっはははははははっ!!あーーはははははははっ!!はーーはははははははははっ!!」


ロアはテンションがぶち上がり腹を抱えて笑う。


「にゃあああ!にゃあああ!」


アルマはパニックを起こす。鎖がついたまま暴れ回り不器用なことに首に鎖がこんがらがる。


ロアの笑いがぴたりと止まる。


「はぁ...なにしてんですか?手がかかりますね...。」


ロア達はアルマに注目し、右回りだの左回りだの指示を出し始める。それにより剣の動きが止まった。


束の間息を整えていると、頭に『おい』と魔王ディーンの声が響く。


『このような痛苦を被る筋合いはない。今回ばかりは手を貸す。即刻対処しろ。』


つまり痛いから何とかしろとの魔王の仰せである。


手に青い魔法陣が無意識に輝く。その場にいる全員がアルマに注目していたために、気づかれることはなかった。


『光の剣』


一本の光の剣が召喚され、縄を断ち切り消える。


縄から解放され目の前の団員の顔を殴る。すぐに足に刺さる剣を引き抜いた。


鋭い痛みに顔を歪める。好きなように抉られた右脚は感覚が鈍くなっていた。


『貴様、何をする。痛いではないか。』


ディーンから文句を言われる。刺さったまま動けというのか。天然な魔王の物言いは無視した。


ロア達に向かって剣を構える。


ロアとその部下達が狼狽える。最も激しいのはロアだった。


「ひぃ!?ひぃぃやぁぁぁ!?あああああなた!?どどとどうやってあの拘束を解いたというのですか!?」


「気合いだよ。それよりアルマの鍵渡しなよ。じゃないとみんな殺すよ?」


肩で息をしながらロアを鋭く睨む。本当は今すぐ殺したくて堪らない。しかし、これ以上アルマを追い詰める訳にはいかない。衝動を抑えるのに苦労する。


エデン自身に自覚はないが相当な殺気が漏れ出ていた。


「ひぃやぃやぃやぁぁぁあああああ!!」


ロアが一層高く悲鳴をあげる。


「やれやれ、これ以上刺激しては危険ですね。ここは言う通りにするとしましょう。はいどうぞ。鍵です。」


そして、一瞬で冷静さを取り戻し鍵を投げる。


それを受け取りアルマを解放した。


アルマは心配げに見つめている。


「大丈夫だよ」とぎこちなく笑う。内心は苦い思いだった。


アルマと一緒にいてわかったことがある。アルマは最強の魔法使いであるが、不器用であるために捕まりやすい傾向があるようだ。


利用価値を見出すどころではない。彼女と共にいることで余計な手間が増えているのは明らかである。


しかし、エデンは今回も気づかないフリをするのだった。


「行こう、アルマ。」


「......。」


かくして、アルマの『転移』の魔法により、冒険団拠点から脱出することができた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る