16話 冒険団団長ロア
アヴァロンの国の北部、『ノース』の街にはこの国の冒険団拠点が位置している。
「ああもう。王国軍は本当に気が短いですね。もっと思慮深く行動できないのでしょうか。」
その冒険団の団長、ロアは頭痛を感じながら自室でひとり状況を整理していた。ロアは茶髪を緩く後ろで結んでおり、細い眼鏡をかけている知的な容姿である。
王国軍と冒険団は以前より敵対関係にある。王国軍は魔物を排除すべき対象として動いている。一方、冒険団の拠点では魔物との共存を見据え、その命を保護しようとしているのである。
しかし、先日の魔王の宣告に触発され、王国軍は魔物を討伐するべく毎日のように駆け回っていると聞く。冒険団が保護できる魔物はごく一部でしかない。
『人間と魔物の優劣を示せ』という魔王の宣告に対し、冒険団にて討議し出した答えは、『正しい行いを示すことこそ優れている』、則ち命を重じるというものであった。
そして、それが正しいということをロアは確信していた。魔王の一説を知っているためである。
魔王は破壊により創造を齎す存在。ただ魔物の虐殺をする種族を誰が生かそうとするものか。
魔物を理解し調和を目指す未来こそ、魔王は目論んでいるに違いない。
そのため、冒険団は王国軍が行う魔物の討伐は止めなければならなかった。
近々、王国軍は軍勢を上げ魔物を一掃する計画を立てていると聞く。王国軍側がどれほどの人数になるかはわからないが冒険団の総力を持って制圧する必要がある。魔物以前に大勢の人間が死ぬ戦争となるだろう。
そこで、頭に痛い難題がある。王国軍のグレイとシロナの存在である。あの最強の兄妹に勝てる者などそういない。
しかし、ロアには運良くもう一つの情報が飛び込んでいた。
『かの最強の魔法使いと凄腕の剣士がこの国を回っている』
その2人を仲間に引き込むことができれば、最強の兄妹等恐れることはない。そう思えた。
「彼らを王国軍より先に見つけなければいけませんね...。」
その魔法使いと剣士は今どこを旅しているのか。目撃情報から行き先を予測しようとする。
「ロア様ぁぁぁーーー!」
思案していると、突然部下がドアを勢いよく開き部屋の中に入ってきた。
「どわあああああああ!?」
ロアはそれに驚き絶叫する。
「ロア様突然すみません!急ぎお知らせしたいことがございます!」
「あああああああ!?あああああああ!?」
「ロア様?ロア様!?」
「...はい何ですか?入る前にノックをしてくれませんか?びっくりするでしょう。」
このように、ロアは気分の起伏の激しい性格をしている。部下はたじろぐが気を取り直し敬礼する。
「は!すみません!それよりご報告がございます!」
「はぁ、なんですか?」
「例の魔法使いと剣士がこの街に現れました!」
「!!」
テンションが急上昇し、ロアは万歳をしながら快哉を叫ぶ。
「うおっっしゃあああああああ!!ぃやったあああ!!きたあああああ!!きっったああああ!!彼らがきた!!彼らがきたあああああ!!」
思い思いに気持ちを表現した後、テンションは急降下する。
「...例の準備を進めてください。そして彼らをこの拠点に案内するように。丁重にお願いします。」
「は!」
部下が出て行った後、ロアは決意を込め細めの眼鏡をかけ直した。必ず手に入れるぞと。
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