15話 水浴び
次の日の朝、エデンは川で上半身裸になり服を洗いつつ水浴びをしていた。先日の返り血を洗い落とそうとしていたのである。
しかし、どんなに洗っても服には血痕が染み付き、髪や手からは鉄の臭いがしている。
「はぁ、血ってなかなかとれないんだよねぇ。」
それはまるで人間を斬った名残が印となりいつまでも残っているようである。それがどうも気になって仕方がなかった。
思えば人間を斬ったのは自分の人格が生まれて初めてのことだった。
人間を斬る瞬間は特に何も感じなかった。しかし、アルマの怯えた姿を見た時、自分はそれ程に恐ろしいことをしたのではないかという感覚に襲われた。
アルマが顔につく血を舐めた時には、こんなことをさせるくらいなら斬らなければよかったと後悔までした。
人間をちょっと斬るだけで自分だけではなくアルマまで苦しい思いをすることになるとは思わなかった。
重たい気持ちを拭うように、ため息を深く吐く。
ふとあることに思い至る。
(僕、魔王として、斬るどころかたくさんの人間を殺してきたよね?)
魔王として殺戮を尽くした光景が脳裏に蘇る。人の一部が散乱し、血に洗われた大地。鳴り止まない絶叫。魔王ディーンが誕生して何十年もの間、魔王は無感情に、無慈悲に役目である破壊を続けてきたのである。
「...ッ!?」
瞬間、大勢の視線を背中に感じた。急激に温度が失われ、体が硬直していく。
ばちゃん!
「わぶ!?」
そこに、アルマが腹打ちしつつ川に飛び込んだ。
「アルマ、なんだ君だったのか。びっくりしたー。」
「ごぼ、がぼ、ごぼぼぼ!」
アルマはバタバタと体を動かしながら沈んでいった。泳げないようである。慌てて腕に抱え救助する。
「アルマ、泳げないでしょ。こんなことまで無理に付き合わなくていいんだよ。もう少しで上がるから待ってて?」
「ぶにゃぁ...。」
アルマの尻尾がしょんぼりと垂れる。一緒に水浴びをしたいようだ。川底に足がついている自分の姿を見て、アルマは閃いた顔になる。
ぼん!
アルマは魔法で癖毛の少女に姿を変えた。人の姿なら川底に足が届くと考えたようだ。かくしてアルマの企みは成功し川の中で立つことができた。
エデンはアルマを腕で抱いていたため、少女の体を後ろから抱き締めているような形となる。それも半裸で。
「にゃ?」
「......。」
言葉を失う。右手に丁度収まるサイズの温かい膨らみを感じるのである。これは何なのか。この世界にこれ程まで柔らかいものがあったのか。そしてこれからどうしたらいいのか。疑問は尽きなかった。
「にゃにゃ?」
「!?」
アルマがみじろぎしたためそれが手の中で柔らかく揉まさる。よくわからないが今までにない程に動揺する。ちなみに右手はしっかりとそれを掴み離さないままである。
(ねぇ、ディーン、僕どうすれば良いと思う?)
魔王ディーンは『知るか』と言い捨てた。
落ち着いた頃、エデン達はグレイ達に遭遇しないように南にあるアヴァロンの城を避け、北にある『ノース』という街に向かうことにした。
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