13話 アルマがいない
グレイとシロナの騎兵隊はアルマを気絶させ城への道中を進んでいた。
シロナは馬に乗りながら物足りなさそうに頬を膨らませている。
「むー、暴れ足りないわ!たくさん血が見れると思ったのにー!つまんないー!」
「ま、まぁ、最強の人材は手に入ったんだし良しとしようぜ!」
シロナが腑に落ちないと言った顔で遠くを見た時、その表情が喜色に染まる。
視線の先にぺちぺちと黒いペンギンが追いついてきていた。その上にはエデンが乗っている。シロナは目を輝かせ、馬を止め矢を射ろうとする兵達を「待って」と止める。
「私がやるわ。ふふっ。」
シロナは笑みを浮かべつつ弓を構え矢を引く。矢は鉄の矢である。それに電撃が溜まっていく。
『雷の矢』
弓を引き絞っていた手を離すとエデン達に向かって電撃と衝撃を纏った矢が稲妻のような俊敏さで放たれた。
それは回避不可能な必殺の一撃であるはずだった。
しかし、それが放たれる前に黒いモンスターペンギンが "まるでどこに射られるかわかっていたかのように" 高くジャンプした。
グレイは「なに!?」と衝撃を受ける。しかし、それだけではシロナの『雷の矢』を完全に防げたとは言えない。
雷の矢は黒いペンギンの足元に刺さり、周囲に強い雷光が上がる。電撃により周囲の草が塵となる程だった。
しかし、黒いペンギンはダメージを受けている様子もなくもぺっとしている。
「え!?ど、どうなってるの!?なんなの、あのペンギン!」
さすがにシロナは動揺を隠せない様子である。それはグレイも同様だった。エデンは黒いペンギンから飛び降りその隙に乗じた。
「もういいね、殺すよ?」
誰からも止められなかったエデンはついに剣を抜く。一息で加速し兵士達の中に飛び込んだ。
「ぎゃあああああ!!」
たちまちに、人、馬、関係なく斬られ大混乱となる。
ある兵士は剣を振り下ろす前に肩から胸に斬り裂かれ、ある兵士は馬上から槍で攻撃しようと立ち塞がり馬と共に足を斬られ落下した。
容赦なく剣を振るう様子にグレイは愕然とする。
「な、あの男、人は斬らないのではなかったのか!?」
先程までは甘すぎる程だったのに今は鬼神の如き所業を重ねていく。まるで同一人物とは思えない変貌ぶりだった。何がそう変えさせたのか、グレイにはわからなかった。
アルマがそばにいるかいないかによってエデンの行動が変わっていることは、グレイどころか本人ですらわかっていないことだった。
今のところ兵士に死人はいない。エデンが加減しているわけではなく、兵士それぞれが死を免れようと必死に努力しているのである。致命傷であっても上級の魔法使いの回復を受けられれば復帰は可能であった。
エデンは兵士達の生死を気にした様子はなく、ただアルマだけを見つめ真っ直ぐ進み続ける。その前に立ち塞がるものはまるで邪魔な草を刈り取るように無慈悲に斬られていった。
「ぎゃああああああああ!!」
あたりに一際大きい絶叫が響く。気絶しているアルマを抱えていた騎兵の腕が落とされたのである。
エデンはアルマを抱き止めようやくその動きを止めた。周囲にたくさんの人が血を流し呻いているというのに気にした様子がない。
「あいつ本当に人間か!?機械なんじゃないのか!?」
グレイはその無機質な様子に怯む。もはや騎兵隊は瓦解している。シロナを含めた兵士全員を転移させ回復を図る必要があった。
「シロナ、退却するぞ!」
グレイが振り向くと、シロナは返り血に染まるエデンを茫然と見つめ続けていた。
「見つけましたわ...あの方こそ...彼こそ私の王子様...!」
その頬が朱に染まっているのは気のせいではない。兄としての勘が働く。今すぐ戦闘狂の妹を奴から遠ざけなければ取り返しのつかない事態となると。
グレイは急いで『転移』の魔法を唱えた。
騎兵隊は転移しエデンから逃げることに成功した。
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