12話 魔王への反抗



 黒いモンスターペンギンがエデンを咥え逃げたものの、アルマはグレイ達王国軍に捕まってしまった。


エデンは離れた森にて『スタン』により痺れて動かない体を休めていた。30分ほどで体が動くようになる。


(大した威力だ。あの二人、魔法の同時使用と広範囲の魔法も扱えたのか。もっと警戒するべきだったな。)


反省していると助けてくれた黒いモンスターペンギンがキュウと話しかける。黒い羽毛とくりっとしたつぶらな瞳が印象的である。


ーーすまないな。アルマを助けるのを失念していた。家族を助けてくれた恩に報いたかったのだが、不甲斐ない。


「ううん、おかげで僕は助かったよ。ありがとね。」


なんとなくその羽毛をもふもふと撫でる。ペンギンはほっこりとした表情になる。



 黒いモンスターペンギンから距離を置いた時、エデンの頭に魔王ディーンの声が響く。


『魔女と逸れたか。時間が惜しい。ここからはお前ひとりで行動するのだな。』


事がなかなか進まないことにディーンも流石に痺れを切らしつつあるようだ。


アルマが倒れている姿を思い出す。このままだと戦争に利用されるのだろうか。あの殺さずを誓う不器用なアルマが。胸を何かが締め付ける。


「アルマを迎えに行きたい。」


気がつくと口から出ていた。


『我々の目的は、偽の宣告の正体を暴くことである。魔女などどうでも良い。』


「良くない。」


『我が命に逆らうというのか?何を意味しているのかわかっているのだろうな。』


ディーンの声の温度が急激に下がる。ディーンはいつでも自分の弱小な人格を消すことができる。それはエデン自身も同意したことだった。


しかし、今は消えたくない。自分がここで消えたら誰がアルマを迎えに行くのか。


慎重に言葉を選ぶ。


「逆らっているつもりはないよ。僕は君の命令を守ってるだけ。だって、僕はまだ、アルマを殺してない。」


用がなくなったら殺せ。それは魔王ディーンの命令である。それをまだ実行できていないことを口実にしてアルマを迎えにいくことを思いついたのだった。


『人間の人格風情が我が命を逆手に取ろうというのか。』


ディーンの声がさらに下がる。実際そうである。しかし、それを悟られるわけにはいかない。キョトンとした表情をつくろい首を傾げた。気づいていないフリである。


「え?」


『...。』


その様はまさに天然だった。

しばらく重い静寂が続く。わざとらし過ぎたか。背中を冷たい汗がつたった時、ディーンの息を吐く音が聞こえる。


『いや、なんでもない。我が命を実行するが良い。』


「いいけど」と返事しつつ、内心は安堵した。無事アルマを迎えにいく許可を得ることができたようだ。



 黒いモンスターペンギンはもぺーと空を見ている。暇そうなので協力を仰ぐことにした。


「僕を乗せてさっきの兵士達を追ってくれないかな?」


黒いペンギンが頷く。そして、何かを待っているように無言で見つめてくる。


「...?僕はエデン。君の名前は?」


黒いペンギンがつぶらな瞳をかっぴらく。名前を聞かれるのを待っていたようだ。


ーー私の名はア「ペン子!大丈夫か!?」


そこにモンスターペンギンを守ろうとしていた青い短髪の大男がやってきた。


「エデンだったな?さっきはありがとな?おかげで俺の家族が助かったからな?」


「いや、たまたまだよ。それより君の名前、ペン子でいいの?」


黒いモンスターペンギンが首を横に激しく振る。


ーー違う!私は男だ!ペン子ではない!そこの男が勝手に名付けただけだ!私の名はアレ「ペン子大丈夫だったか?怪我してないか?」


「もう一回いい?」


ーー私の名はアレキ「ペン子?どうした?」


「...うん。よろしくね。」


埒があかないので黒いモンスターペンギンの名をペン子とし、先を急ぐことにした。


「僕もう行くから。じゃあね。」


エデンは大男に挨拶し、ペン子に乗り去っていった。


大男はその背中を羨望の眼差しで見送った。

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