10話 モンスターペンギン達を守れ①

 エデンとアルマは東の街『イース』に到着する。街を回り、偽の魔王の宣告の情報を探ろうとした。しかし、この街の上空から声が響いたという情報の他、特に何の痕跡も残っていなかった。


「はぁ...なかなかうまくいかないね。」


思うように進まない状況にエデンはため息を吐く。地道に人々から聞き取るのも疲れてきた。犯人が尻尾を出すのを待った方が楽なのではないか。


アルマに大丈夫?と声をかけられる。


「うん、大丈夫だよ。ありがとう。」


なんとなくアルマの頭を撫でる。アルマは気持ちよさそうにうっとりとした。



 『イース』の街の人々は、魔王の宣告よりも『街に近づいているモンスターペンギンの群れをアヴァロンの王国軍が来て討伐してくれる』という話で盛り上がっていた。


人々は魔物の群れが近づいているというのに避難する様子はない。王国軍の戦う姿を見に行きたいという人々もいる。王国に熱い信頼を寄せているようだ。


エデンとアルマは王国軍に話を聞こうと街はずれの丘へ向かった。



 街はずれの丘にて。

エデン達が到着した時、王国軍の騎兵隊が馬から降り、魔物であるモンスターペンギンの群れを討伐しようとしているところだった。


王国兵の前に青い短髪の大男が立ち塞がっている。王国軍のひとりが大男に向かって叫ぶ。


「おい大男、俺はアヴァロン王国の王子グレイだ!貴様、自分が何をしているのかわかっているのか!モンスターペンギンは群れになって人を襲うんだぞ!何故そいつらを守る!?」


「......。」


グレイは大男に無視されショックを受ける。


少し置いて、大男は一拍遅く「あっ俺か?」とようやく呼びかけに反応した。


「こいつらは距離を保ってやれば人を襲わないからな?優しい魔物だからな?」


大男は振り返り「なぁそうだよな!?」とモンスターペンギン達に確認する。


ペンギン達はもぺーと空を仰いでいる。


「...その魔物達が人に危害を加えないと言い切れるのか!?」


「襲わないよな!?そうだよなみんな!?」


ペンギン達はもぺーとしている。


グレイが無言で片手を上げた。


それを合図に王国兵数人がその大男を押さえ込んだ。


「あ、なんだ!?何をするんだ!?」


「悪いがこれ以上付き合ってられん。引っ込んでてくれ。皆の者、矢を放つ準備をしろ。」


兵士達がモンスターペンギン達を狙い弓を構える。大男は暴れるが数人に押さえつけられ動けない。


ビタン!


そこに、アルマがモンスターペンギン達の前に不時着する。ペンギン達を守るつもりのようである。


エデンはそれをただ眺めた。アルマなら余裕で制圧することが目に見えていた。


「なんだあの猫は、まぁいい。皆の者、矢を放て!」


グレイの合図に兵達が矢を引き絞る。


「にゃう!」


対し、アルマはそれを防ぐべく『防壁』の魔法を唱える。しかし、不器用な彼女は咄嗟に自分の後ろに防壁を作ってしまった。これではモンスターペンギンを守れてもアルマに矢が当たる。


「ええ!?嘘でしょ!?」


勝手に体が動き、気が付いたらアルマの元へ走っていた。


アルマに向かって矢が放たれる。


どうにか寸前で間に合い、アルマを抱えスライディングし矢をかわす。思いの外速度が出たようで10mは背で地を滑ることとなった。


「なんという速さだ!お前も邪魔をする気か!俺を誰か知ってのことだろうな!?」


「いてててて...さっき名乗ってたから知ってるよ。グレイでしょ。それがどしたの?」


グレイは呆れたように言葉をなくす。そこにくすくすと笑いながら黒髪の少女が兵をかき分け歩み出てきた。


「ふふふ、戦いの場面じゃ王族も平民も関係ないって訳ね。その考え、嫌いじゃないわ。私はアヴァロンの王女シロナよ。ねぇ、あなた、名前は何と言うの?」


「僕はエデン。この子はアルマだよ。」 


グレイがぴくりと反応する。


「アルマ...アルマだと?その猫がかの最強の魔法使いか!これは丁度いい、良い人材を見つけたぜ!」


グレイは戦意を見せる。シロナは不敵に笑い品定めするように見てきた。


「エデン、あなた良い目をしてるわね。私達が勝ったらあなた達には王国の下で働いてもらおうかしら。」


「...いいけど。」


エデン達は最強の兄妹、グレイとシロナと対峙した。









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