9話 最強の兄妹



 その頃、アヴァロンの城にて。


「やれやれ、面倒なことになったものだ。」


アヴァロン王国の王子、グレイは無造作な黒髪をかきながら出立の身支度を整えていた。


魔王の宣告による人と魔物の優劣をつける方法とは、王国の方針は『力を持って魔物を討伐し、人が優れていることを示す』というものであった。


グレイは24才にしてこの王国に2人しかいない上級の魔法使いのひとりであった。


上級の魔法を使える者は稀な存在である。それがひとりでもいればその戦況はひっくり返り、死傷者の数も格段に減る。兵の負傷なく事を終えることも可能である。


そのため、グレイは王子でありながらも日々魔物の討伐という任務もこなしているのである。


「兄様。待ちなさい。」


騎兵20人程を連れてでる際に、ドレスを見にまとった少女が近づく。


グレイの妹、シロナである。シロナの外見は黒く艶やかな長髪をしており、そのまま黙っていれば麗しき18歳の王女である。


「どうした、シロナ。」


「この馬鹿兄がっ!!」


「ええ!?」


「また私に執務を押し付けて外へ出かけしようとしたわね!?私なんてこの城にずっと缶詰状態なのよ!?戦うのが大好きなこの私が!!」


グレイと同様、シロナも上級の魔法使いである。故にグレイとシロナは『最強の兄妹』と呼ばれている。


その才能のせいか、シロナは内面が戦闘狂、威圧的に出来上がってしまい恵まれた外見の全てを台無しにしてしまっている。


「し、しかし、シロナ...。」


「魔物の討伐でしょ!?代わりなさい!兄様より私の方が早く終わるんだからーー!!」


シロナは侍女二人に取り押さえられながらも飛びかからんと迫る。


魔王の宣告により、今は国中に混乱が生じている。おてんばな妹が勝手にひとりで強行しようとすることだけは避けなければならなかった。


「そ、それでは、一緒にいってさっさと終わらせようか。」


「最初からそう言えば良かったのよ!さぁ行きましょ!」


シロナはぱっと満面な笑みに変わる。そして、ドレスをその場で脱いだ。兵士の全てが目を剥く。


「「ええ!?」」


その下は身軽な装束であった。予想通り、断られても強行するつもりだったようだ。


「シ、シロナ、だらしないぞ...。」


「兄様には言われたくはありませんわ。」


グレイは咄嗟に言い返そうとしたが沈黙する。


妹の従者の女性複数人に言い寄っている事がバレたのか、鍛錬の時間にゲームをしていた事がバレたのか、それとも...。


これ以上話をしても分が悪いと判断した。


「さて、時間が惜しい、行くとしよう!」


「ふふ、思いっきり発散しちゃうんだから!」


シロナの瞳はこれから魔物を殺しに行くといくのに嬉しそうに輝いている。


グレイはそれをみて嘆くようにため息を吐いた。


妹は18歳。結婚するに適した年齢である。今までに何度も見合いの機会があったのだが、このお姫様は「あなたなんかが私の王子様?恥を知りなさい。」と相手を一蹴するのである。王女は相手に何を求めているのか。父とグレイは幾度も頭を悩ませた。


机の引き出しに隠しているあれを渡せる日は来るのだろうか。兄として楽しみかつ寂しい気持ちでいた頃が今は懐かしい。今はただ、使い道があることを祈るばかりである。


最強の兄妹は20人の騎兵を連れ、モンスターペンギンの群れがやってきているという東の街『イース』を目指した。



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