8話 やる時はやる猫


 しばらくした後、エデンはボコボコに叩きのめした男達に案内してもらい、村の役員と村長の元へ向かっていた。


アルマは少女の姿をしたままである。その姿に村の男達が隙あれば飛び掛からんとギラついた目で注目している。一方でアルマは人気者になったつもりなのか爛々と歩いている。


「...楽しそうだね。」


エデンは居心地の悪さを感じつつため息を吐いた。



 エデン達は村長と役員の元へ行った。村長はボコボコにされている男達を見て震えながら謝罪を繰り返していた。


「...も、申し訳ありません。本当にすみません。許してください。」


「別に怒ってないよ。それより魔王の宣告について何か知らない?」


「ひ、人と魔物の優劣を示すようにとの宣告でこの国中が混乱しているとお聞きしております...。わ、我々は数で優れていることを示そうと考えただけなのです...。」


「あの魔王の宣告は偽物だよ。気にしなくていいと思うよ。」


「に、偽物ですか?あ、あなたに何故そのようなことがわかるのです?」


「それは僕が...。」


魔王だから。そう言おうとした。勿論魔王ディーンがそれを許す訳がなかった。


『馬鹿者ぉぉお!魔王であることを明かすでない!このたわけがぁぁあ!』


「うわぁ!?」


質問に正直に答えようとした時、魔王ディーンの声が大音量で頭に響きわたる。


「さ、さっき妖精さんにそう教えてもらったのさ。」


「はぁ、妖精。つまり偽物である証拠はないと。そうおっしゃるのですね?」


弱味を見つけたというように村長の目が細められる。


「しょうこ?」


「ええ。魔王の宣告が偽物である証拠ですよ。それがなければあなたの言い分を聞くわけにはいきませんね。あるならどうぞ?見せてくださいよ?ええ?」


村長がずいずいと迫る。


「う、うーん...。」


本物の魔王の仕業ではない。しかし、その証拠が示せない。村長が満足げに笑う。


「どうやらないようですな。さて、女達を連れ戻しに行かせましょう。む?」


その時、アルマが村の中央にある像を指さした。


その場の全員が不思議な容姿を持つ少女に注目していた。自然と指を指す先の像へと視線が移る。


この村のモニュメント、創立主の像である。


周囲が像に注目している隙にアルマは手に緑の魔法陣を出現させた。


瞬間。


ドゴォォォォン!!


そこにはるか空まで立ち登るような炎柱が立ち、像を粉々に粉砕した。


「ひぃぃぃ!?」


村の人々は驚愕し震え上がる。


振り向いた時には少女の姿は消えていた。


「ひぃぃぃ消えた!?魔王の使いか!?先程の炎は魔王によるものなのか!?」


エデンの服がもっこりとしている。アルマが猫の姿に戻り、服の中に隠れ込んでいた。


「あ、えと、そうゆうことで、なんか違うって魔王が怒ってるみたいだね。あの宣告が偽物だって信じてくれたかな?」


村長と村の役員達は蒼白な顔をしてこくこくと頷いた。


「ところで聞きたいんだけど、その偽の魔王の宣告が聞こえたのはどの方角だった?」


「東の街『イース』の方角でございます...。」


「そう、それじゃ、僕行くから。じゃあね。」


アルマを落とさないように服の上から抱え去ろうとする。


「待ってくれ!礼をいわせてくれ!」


咄嗟に呼び止めたのは、先程男達から助けた赤毛の女性であった。


「あっ、君はさっきの女の子。」


「へ!?お、女の子!?」


ぺろぺろ


「ひゃう!?」


突然、服の中にいるアルマが肋骨らへんを舐め始めた。


「ご、ごめん、僕急いでて、早く行かなきゃ。ふはっ!?じゃ、じゃあね。」


エデンは顔を赤らめ固まっている赤毛の女性を置いて、早足に去っていった。



 村が見えなくなった頃。


「アルマ、悪ふざけが過ぎるよ...。」


アルマは悪びれる様子もなくただ呑気に服の中で寛いでいる。


人を吹き飛ばすほどの『風』の魔法、そして先程の天高く上がる『炎』。間違いなくアルマは最強の魔法使いで、魔王である自分にとって後々邪魔になる存在であることは間違いない。


そんな貴重な存在がこれ程に無警戒でいいのだろうか。


しかし、不思議と悪い気はしない。アルマに触れているところがぽかぽかと暖かい。毛並みが気持ちいい。


「不器用な君にしてはよくがんばったね。お疲れ様。」


エデンは自然と服の上からアルマを撫でていた。










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