7話 エデンとアルマの旅


 道中のこと。


エデンは魔王ディーンに『用がなくなったら殺せ』と命令されたため、アルマを観察しながら歩いていた。利用価値がなくなったら殺さなければいけない。それならば、利用価値がどれ程あるか見定めようとしていたのである。


観察の結果、アルマは一風変わった猫であることがわかった。


まず、走ると転ぶ。木で爪研ぎをしようとするとささくれが刺さる。ジャンプはできても着地ができない。木にも登れない。


アルマは不器用なことにやることなすことが失敗するのである。


(この子に利用価値って本当にあるのかな?ひょっとして、今すぐ殺した方がいい?)


悩んでいるとアルマが川を見つけ水を飲んでくると駆けていく。


「あ、うん。行ってらっしゃい。」


アルマは川の水を飲もうと水面に顔を近づける。勢いが強すぎて顔が水の中にどぼんと入った。


そして、そのまま川に落ちていった。また失敗である。


「あ、落ちた。」


エデンはその瞬間をただ眺めた。


川から水浸しとなったアルマが魔法で浮いてくる。ふるふると全身が震え寒そうである。


アルマが焚き火を作るのを手伝って欲しいと訴える。


「いいけど、僕、魔法使えないから木の枝を集めるくらいしかできないよ?」


アルマが自分が魔法で火をつけるから大丈夫と得意げに胸を張る。


エデンは木の枝を適当に集めた。アルマが魔法で火をつけようとする。


『炎』


ドカン!


火力が強すぎて木は消し炭となった。またまた失敗である。


「......。」


アルマの尻尾がしおしおになる。失敗が重なり落ち込んでいるようである。くしゅんとくしゃみをした。


「大丈夫だよ。これを火種にすればすぐつくよ。」


柔らかい葉で燻る燃え滓を包み息を吹きかける。段々と火が大きくなり、焚き火ができた。


「ほら、できたよ。」


「にゃあ!?にゃあにゃあ!」


アルマが嬉しそうに焚き火の周りをぐるぐると回る。ようやくの成功である。


「良かったね。」


他人事のように言いつつ、自分がよくわからない行動をとったことに気づく。アルマを今すぐ殺そうか悩んでいたはずなのに、見ていられずつい助けてしまった。


(まだ利用価値があるということかな?うん、きっとそうだ。)


エデンは強引に片付けたのだった。



 しばらく、エデン達が歩いていると、若い女達が集団で逃げているところを発見する。とても殺気だっている様子である。


「にゃう?」


「うん、なんだろね。話を聞いてみようか。」


女性たちに話を聞く。


女性達の村にて、『魔物より人が優れていることを示せ』という魔王の宣告をきき、役員と村長らが『魔物より人の数を増やすべき』と独断でお触れを出してしまった。そのために女性達は貞操の危機を感じアヴァロンの国外に逃げることにしたのだった。丁度、旅をしていた赤毛の女剣士が村に残り、女達が逃げる時間稼ぎをしてくれているらしい。


魔王の宣告の手がかりが見つかるかもしれない。その村へ行ってみることにした。



 村にて。


 赤毛の女性に10人程の男達が下卑た笑みを浮かべ迫っていた。


「仕方ない!いやぁ仕方ない!やりたくないけど仕方ないんだ!すまんな!」


「ふん、随分と気が早い連中だな。それ以上近づいたらそのだらしない顔を切断してやるがいいな?」


女性の剣士は男複数に囲まれているが気丈に振る舞う。しかし、その腕はかすかに震えていた。


「お、おい、あれ見ろよ!」


ひとりの男がそう叫び、指をさした方角を男達は見る。


そこには白く長い癖毛をたなびかせる、少女の姿があった。見た目の年齢は10代後半、瞳は緑である。不思議な容姿に男達は心を奪われる。


無論、隣に突っ立っている付属品の男など男達は見向きもしなかった。


風が吹く。


少女のスカートがたなびき、もちっとした太ももが見えた。


「若い女だーーーー!!」


男達は理性を爆発させ、我先にと駆け出した。


その少女の正体は魔法で人間に姿を変えたアルマである。


アルマが囮になることで戦闘を避け、男達を女性から離す作戦であった。エデンとアルマは男達から逃げる。


「その子、誰?」


「にゃん!」


アルマは名前はわからないがこの少女がなにかと都合が良いからよく姿を借りると話す。毛と瞳はアルマのままである。


しかし、少女の姿となっているアルマの足は非常に遅い。二足歩行に慣れていないため、不器用な彼女はうまく走れないのである。


男達との距離が狭まっていく。


「もっと早く走れる?」


「にゃ、にゃう...。」


ドテッ


不器用なアルマは早く走ろうとして転んだ。


「女の子が転んだぜ!俺が一番だ!!」


ひとりの男が抜け駆けしてアルマに飛びかかった。


その胸をエデンが蹴り飛ばした。


「ごふ!」


「もー、不器用なんだからー。」


ため息を吐きながらアルマの前に立つ。


「く...戦う気か!?どうする!?」


男達はたじろぐ。金髪の男が手練れであることが伝わったのである。


ちらっと怪我をした膝を舐めている少女の太ももを見た。


「実力行使するに決まってるだろ!俺達ならできる!」


「ああ!そうだったな!」


一致団結した男達はエデンを取り囲んだ。


「あーあ。囲まれちゃった。もういいね?殺すよ?」


アルマはだめと首を振る。


「えー、殺す方が簡単なのにー?いいけどさー。」


エデンは剣を鞘に入れたまま構えた。



 

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