5話 動物殺傷事件

 夜間。アヴァロンの国のひとつ『ウッド』の街にて。


武器を持った不審な男が5人程の集団になり、街を歩いていた。


「くくく...こんなことが人助けになるとは、面白いことになったな。」


「動物も魔物だからな。まぁ、とりあえずたくさん殺しとけば人間が優れてるって魔王にも伝わるだろ。」


この男達がこの街で相次いでいる動物殺傷事件の犯人グループである。動物も広い意味では魔物の中に含まれる。そのため、人間が優れていることを示すために、男達はかよわい動物を殺傷して回っていたのであった。


「こんばんは。」


「!?」


突然、男達の後方より声をかけられる。男達が振り返ると、暗闇の中に金髪の青年が突っ立っていた。


「ちっ!今の会話、聞かれたか!?」


5人の男がその青年を取り囲み、武器を手に取る。


「体の動きを確認したいんだよね。手伝ってくれるかな?」


多勢に囲まれているというのに、青年からは微塵も恐怖を感じられない。不気味なまでに無表情だった。


「なんなんだ!?こいつ...!?」


「不気味だな...!聞かれたからには生かして帰すわけにはいかねぇな!」


男の一人が一瞬でナイフを懐から出し素早く投げつける。しかし、青年は目の前でそれを掴んでみせた。


「な!?この暗闇でこれを止めるだと!?どういう神経してるんだ!?」


「それならこれはどうだ!」


もう一人の男が青年に向かって剣を振り下ろす。青年はその場から動かず、重心を移動させそれをよけた。


「ち!なかなかの手練れのようだな!」


「もういいよ。ありがと。それじゃ、殺すね。」


「!?」


男達は意表を突かれる。人は人を殺す時は多少の殺意や迷いが生じるはず。青年の声は淡々とし、なんの感情もこもっていなかった。


男達を恐怖が支配する。青年が「これもらうね」と一声かけて男から剣を奪い取った。


「あ!?」


そして、青年は男の首に向かって、剣を横に振るった。


ガキィン!


剣が首に当たる瞬間、魔法の『防壁』が現れそれを阻んだ。


青年はキョトンとする。


「......あれ?防壁じゃん。誰の魔法かな?」


ビタン!


返事をするように白い猫が屋根から落ちて地面に不時着した。


「「.......。」」


大丈夫か?この猫。

あたりに不思議な静寂が訪れる。


何事もなかったかのようにその猫がその場に座り直す。そして、青年に対し見つけたと言わんばかりにびしっと指を指す。


「にゃあ!」


「え?動物殺傷事件の犯人見つけた?なにそれ。僕じゃないんだけど。」


驚くべきことに青年は猫と会話を始める。やはり狂人だったか。男達は逃げの算段を目配せする。


瞬間、猫の足元から瞳と同じ色の緑の魔法陣が広がり、青年とついでに男達の立っている地面を覆う。


「な、なんだ!?この猫、魔法が使えるのか!?しかもこの色は上級の魔法使い!?」


男達にとってこんな猫が世にも希少な上級の魔法使いなどとは信じ難いことだった。


魔法陣の中を、風が回転するように吹き荒れていく。風は段々と強さは増していき竜巻となった。大の大人であるにも関わらず、青年と男達の体が浮き回転に呑まれる。


「ぎゃあああああああ!!」


「うわあああああああ!!」


竜巻に巻き込まれその場にいた全員の悲鳴が舞う。そんな中、猫はのんきに毛繕いを始める。


「「ああああああああああ!!」」


猫はゴロゴロと寛いでいる。


「「あああああああああああ!!」」


猫は欠伸をする。そして、その場で丸くなり寝る体制となった。このまま放置するつもりなのである。


「まって!寝ないで!?我々です!我々が犯人です!」


犯人である男達が命からがら白状し、ようやく魔法は止まったのだった。

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