3話 金髪の青年

 魔王ディーンは人間の姿に受肉を果たし大地に立った。


(ふぅ。なんとかうまくいったか。ああ疲れた。)


ディーンの人間の姿は背丈は元の半分170cm程の金髪の青年の姿である。


(これが人間の肉体か。なかなか小回りが効きそうではないか。)


さっそく人間としての肉体の動きを確認しようとする。しかし、不可思議なことに意のままに体が動かない。


『何故だ?』

「何が起きたんだろ?」


『え?』

「え?」


『貴様、何者だ?』

「君、だれ?」


『我は魔王である。』

「僕は魔王だよ。」


『え?』

「え?」


ディーンの声は音にならず、別の者の声がその口より紡がれている。まるで一つの肉体に二つの人格が存在しているようである。


しばらくの間、その人格と同じ言葉を繰り返すように争った。


そして、状況を理解する。


『成る程。人間に受肉したらこの肉体に人間の人格が芽生えてしまったようだ。今までの行いと記憶は共有されているようだな。』


「そのようだね。」


今のところ、体の主導権は忌々しいことに人間の人格の方にあるようである。ディーンの声は音にならず、頭の中でのみ聞こえているようである。


『我はこれよりやることがある。貴様、邪魔だ。即刻消えろ。』


「いいけど。」


『え?』


「え?」


存外に人間の人格は自分が消えることをあっさりと受け入れる。その従順で意思の弱い様子にある事を思いつく。


『いや、やはりやめよう。』


「え?いいけど。」


『いつでも消えるのであれば今すぐ消す必要はない。我の命に従うならばしばらくは生かしてやろう。だが、命に背くようなら即消滅してもらおう。』


「いいけど。」


『それでは命ずる。お前はそのまま人間として生き、魔王と知られぬよう偽の宣告の正体を暴け。青の魔法陣を使用することは禁ずる。魔王と周囲に知れてしまうからな。』


つまり、魔王ディーンは自分は面倒であるため、この人間の人格に偽の宣告の始末を押し付けようと目論んだのである。


「いいけど。」


その人間の人格には、無感情の魔王と同様に感情がなく、生まれて間もないことから自分の意志はほぼ持ち合わせていなかった。


このように、その金髪の青年の旅は魔王ディーンの退屈しのぎから始まった。それはいつでも削除出来るほどに雑魚な存在であった。





 


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