2話 魔王ディーン


 その頃、魔王城にて


『えっ?』


魔物の王である、魔王ディーンは素っ頓狂な声を上げ、玉座から立ち上がった。


ディーンは殺戮と破壊行為することで創造を齎す役目を持つ無感情の魔王である。


アヴァロンの王国付近で放たれた宣告を耳にしディーンは首を傾げる。


(どうなっている?我は何もしておらぬぞ?)


そう、ディーン自身は特に何の宣告もしていなかったのである。


(まさか、我が2人いるとでも言うのか?)


やや天然な性格をしているディーンは自分の名を何者かに騙られたことには思い至らず率直にそう考えついた。


ポケーと呆けているディーンの前に魔王配下の剣士が現れ膝をつく。


『崇高なる我が王よ。恐れながら申し上げます。あのように勝手に名を使われては魔王としての立場がございませぬ。即刻不届き者を探し出し始末すべきと存じます。』


『むぅ。』


剣士の険しい表情をよそにディーンは単純に思った。面倒であると。当該の種族間にて適当に収めれば良いと。


威厳を保つように咳払いを一つする。


『それは、当該である人間が裁くのが道理であろう。』


『な!?』


剣士はその言葉にワナワナと震えている。


『自らを人間に受肉させ、不届き者に人間として断罪を与えるというのですね!?』


『えっ?いや、違うが。』


『なんと思慮深いことでしょう!さあ!参りましょう!今すぐに人間にどうぞ受肉してください!魔王の名を騙る不届き者に地獄を与えてやりましょう!!』


その剣士はディーンの言葉をかき消す程に大声をあげる。


その声はディーンのいる宮殿を守護しているダークドラゴン達の元へと届く。


ダークドラゴン達が雄叫びを上げる。


『その通りである!!我らが王の名を騙るなど万死に値する!!今こそ我らが王の力を知らしめる時!!』


その声に呼応し魔王城にいる全ての魔物が唱和する。


『魔王様!万歳!魔王様!万歳!』


ディーンは未だに呆気にとられている。剣士から魔王城全ての魔物に渡るまで数秒である。しかも、皆の様子から今更言を取り消すのもなんだか躊躇われる状況である。


ディーンは思考する。


(まぁ、殺戮の指示を与えここに居座り続けるのも退屈であった。人間として戯れるのも一興か。)


意を決したディーンはもう一度咳払いをする。


『ふん!始めより我が意は決まっていた!これより我は人間として大地へ降り立つ!我が名を騙る不届き者へ誰も知り得ぬ地獄を見せることをここに約束しよう!しばし留守にする故、破壊の指揮は任せたぞ!』


『は!』


魔王ディーンは大波のような勢いに乗り、片手に青の魔法陣を出現させる。


魔法陣の色とはその者の才能を表し、扱える魔法の範囲が決まる。青の魔法陣は魔王にのみ与えられ、破壊に特化された特別な力である。


ディーンは人間へ受肉するべく魔法を唱えた。しかし、青の魔法陣が乱れ不安定である。様子がおかしい。


『むむ...!?』


(なかなか制御が難しいな。破壊ではないからか?)


しかし、今更やめる訳にもいかない。魔王城にいる大勢の魔物がちらちらと興味深そうにこちらを窺っているのが見えるのである。


『おおおおおおおおおお!!』


魔王ディーンは全身全霊で人間への受肉へ力を注いだ。


かくして、人間へ受肉する魔法は、ディーンの想定し得ない結果となって成立することとなった。


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