外伝5 ユーキvsエデン (真剣勝負)

 ユーキとエデンが情報交換を兼ね会話をしている時のこと。


「ユーキ、そういえば例のダンジョンどうだった?ユリちゃんどんな反応だった?」


「勇者、お前、はめただろ。」


「えー、人聞きが悪いなぁ。君があまりにも喋らないから後押ししただけじゃん。」


「余計な気を回すな。」


「年下だからって気を遣い過ぎじゃない?」


「あいつは怖いもの知らずだが疎いところもある。天然勇者にはわからんだろうな。」


カチン


「...わかんないなぁ。随分奥手みたいだけど、それとヘタレとどう違うの?」


カチン


「...少なくとも、許可なく触るような粗相はしないな。お前のように。」


「...それ、セクハラされやすい隙だらけな人が言うセリフじゃないよね?」


バチッ!


「...ガキ。」


「...26才児。」


バチバチッ!



 こうして、エデンとユーキは剣で勝負をすることになった。


二人は無言で対峙する。ユーキの目は座り、エデンは能面のような顔をしている。


二人の戦いを、ユリ、モンペン、マイ、ボドーが見学する。ユリはユーキの様子を見て焦る。


「ユ、ユーキがうつろな瞳をしています。あれは人を殺す時の目です。エデンさん、大丈夫ですかね?」


「大丈夫だ!エデンの顔も見てみろ!あの無感情の顔は斬ることだけ考えている時の顔だ。」


「え?二人とも何する気だ?手合わせだよな?」


「とりあえず始めるぞ、用意!」


マイがボドーの言葉に構わず号令をかける。


ユーキとエデンが剣を抜き構えた。


「え!?あれ剣ですよ!?木剣じゃなくて!あの二人殺し合いするつもりですか!?嘘ですよね!?」


「大丈夫だ、始め!」


マイがユリの言葉に構わず号令をかける。


瞬間、二人同時に駆け出した。


エデンは変則的に加速し先手をとる。


「はああ!」


秒もかからぬ内に下段中段上段に3連撃を繰り出した。しかし、ユーキは剣を振り上げるようにして一つの動作でそれを全て受け流した。


「は!」とそのまま力強く剣を振り下ろす。


対し、エデンは体幹を僅かに移動させそれを避ける。剣はエデンの顔のすぐ目の前を通った。それに一切怯むことなく反撃を繰り出す。


しばらく、あたりに金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き渡った。


剣を叩きつけ合った後、剣を合わせ押し合いとなる。


ユーキがエデンの剣を強く弾き、眉間に向かって鋭く突く。相手からすると迫り来る剣の距離が測りにくい技である。


きゃ!


モンペンは堪らずぎゅっと目を瞑った。


対し、エデンは瞬時に体勢を整え突き返す。剣同士が滑り合いわずかに軌道が逸れた。


「くらえ!」


エデンの剣がユーキの首目掛けて振るわれる。


ボドーは「きゃ」と顔をサッと覆った。


「くッ...!」


ユーキは後退しそれを避けた。エデンはユーキを追いすぐさま剣を叩きつける。


「眉間はだめでしょ!」


「首ならいいのかよ!」


震えながら兄弟のように抱きしめ合うモンペンとボドーの隣で、ユリとマイは姉妹のように顔を赤く染め快哉を叫んでいた。


お互いに剣を弾き合い、再度距離を置く。


今度はユーキから先手を取りに動く。力強く踏み込むと瞬時に間合いを詰めた。


「え!?」


いつの間にか振り下ろされていた剣をエデンはほぼ反射で受け止める。その剣撃は軽いものであった。本命は銅である。ユーキは手首の動きで剣を返すと、強く踏み込み重い一撃を叩きつけた。


「いっ...!」


エデンがなんとかそれを受け止めるも、それはまともに受けるべきものではなかった。強い衝撃に右手が痺れ反撃ができない。


ユーキの切り返しの連撃が続いた。


「く!」


エデンは反撃の糸口を見つけるため、ユーキの目を見て次の攻撃に備える。


ユーキが剣を横に振った時、エデンは体勢低くスライディングした。ユーキの斜め後ろに回り込み、低い体勢のまま左手で剣を振り上げた。


ユーキは振り返り様にそれを受けた。


「「ちっ!」」


お互い舌打ちする。


ユーキは重い剣撃、巧みな技、そして振るった後の強い引きによりほとんど隙がない。


対し、エデンは並外れた反射神経でそれを防ぎ、俊敏で柔軟な動きによる攻撃を繰り出していた。


 二人の勝負は続き、3時間程経過した。


エデンとユーキは息を切らしながら汗を拭う。


「はぁ、はぁ、なかなかしつこいね...。」


「はっ...はっ...さっさと諦めたらどうだ...!」


「積極的に動けるんじゃん。それをなんでしないのさ。」


「お前には関係ない...。それより、そんなに動けるならその頭も多少動かしたらどうだ?」


カチン


「...ほんと君って剣の腕も頭の中もゴリラ並に堅物だよね。」


カチン


「...お前は頭に花が咲いた小回りの聞くサルのようだな。」


バチッ!


「筋肉ゴリラ!」


「天然ザル!」


バチバチッ!


ブチギレたゴリラとサルは剣をぽいっと投げ捨て、ギャアギャアと動物らしく取っ組み合いを始める。


ユリとマイが慌ててそれぞれにしがみついた。


「ユーキ、やめてください!あなたの筋肉私は好きです!特に腹筋!」


「エデン、落ち着くんだ!サルでもいいんだ!可愛いじゃないか!」


ゴリラとサルの取っ組み合いは水と油が弾け合うように、しばらく止まらなかった。



 ボドーとモンペンはぼーとしながらその様子を見ていた。


剣は弟が上なのかな?


モンペンはどこか自慢げに呟く。決着はつかなかったが、勝負の采配はユーキが攻撃、エデンが防御に回っている姿が多く見られていた。


モンペンがぺんぺんと何を言っているか人間であるボドーにはわからない。放り投げられたエデンの剣を見て悲しげに項垂れた。


「エデン...またどっかに一本忘れてきたな...?探さないとな...。」


魔王ディーンは二刀流の使い手である。




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