外伝4 ユリ一行と入れ替わりのダンジョン

 これは飲み会の数日後の話である。

 

 生活費に困ったユリ、ユーキ、モンペンは勇者一行に紹介され、とあるダンジョンに挑戦することになった。


一行がダンジョンに足を踏み入れた瞬間、各々の体に異変が起きる。


「わ!急に背が伸びた!私、ユーキになっちゃったみたいです!強そうです!」


ユーキの体に入れ替わったユリはテンションが上がる。


「おお!?これがお嬢の体!ちっちぇー!なんかなんでも器用にできそー!」


ユリの体に入れ替わったモンペンも楽しそうにしている。


......まじかよ。


モンペンの体に入れ替わったユーキは地の底を這うような低い鳴き声をこぼす。


ユリ達は勇者一行が紹介したこのダンジョンは『入れ替わりのダンジョン』であったことがわかった。 


一行の脳内に、このダンジョンを主に紹介した勇者エデンの楽しげな笑い声がこだまする。



 しばらく進むとユリ達の前に魔物の群れが立ち塞がる。ユーキの体に入れ替わったユリが前に出て剣を構える。


「ふ...わた、俺は今機嫌が悪いんだ。この剣のサビになりたくなければ道を開けるがいい!」


ユーキの真似である。魔物達は憐れな者を見るようにそれを見つめた。


「あはははははは!どうしたんですか!?かかってこないんですか??ほら!ほらほらほらほら!」


魔物達は笑いながらめちゃくちゃに剣を振り回す銀髪の剣士を気が狂ったものと思い、優しく道を譲った。


通り過ぎていく一行に魔物達はなおも悲しげな視線をじっと向け続けた。


しばらく歩いた後、モンペンの体をしたユーキが歩みを止め立ち尽くす。


「大丈夫だ、弟よ。いつもそんなもんだ。」


ユリの体をしたモンペンが慰めようと優しく声をかける。しかし、ユーキはしばらくの間その場を動くことができなかった。



 一行がなんとか足を進めると一行の前にスライムの群れが現れた。ユリの体をしたモンペンが前に出る。


「ここは俺に任せろ!」


モンペンはそう言いスライム達に手ぶらで向かって行く。現在ユリの体であることは失念していた。


無論、体力E筋力Eのユリの雑魚な体はその勢いについていけるわけがない。モンペンは足を挫きスライムの目の前で思いっきり転ぶこととなった。


「げふっ!」


自然と目の前に差し出された餌にスライムはなんとなくまとわりついた。


「うお!?なんだ!離れろ!この!この!」


バタバタと暴れるユリの体をスライムが拘束し、やわやわと揉み始める。


「あ、くすぐったい!やめろ!ふひゃ!」


「あ、私の体が、よ、よーし!今助けてあげますからね!」


ユーキの体をしたユリがスライムを剣で斬ろうとするが液体のようにまるで手応えがない。その間スライム達はユリの体を揉み続けた。


「ひゃあ!ふわぁ!た、助けて!お嬢...!」


「あれ、切れない。どうすればいいんでしょう、ユーキ。」


モンペンの体をしたユーキはもぺっとしている。


「ユーキ?」


ユリの体のスカートがまくれ上がり、もちっとした肉付きの良いふとももがあらわになった。


「ふぎゃあ!冷たい!助けて!弟よ...!」


「あ、恥ずかしい、早くしないと!ユーキ、教えてください!どう戦えばいいですか!?」


ユーキはもぺっとしている。


「もしもし?」


ユリの体の服が溶け、手のひらサイズの白い胸元があらわになる。そこにスライムが入り込み柔く揉み始めた。


「...あっ...うっ...お嬢...弟...助け...。」


「わああああ!私の体ーーー!!モンペーーーン!!早く教えてください!!ユーキ!!」


ユーキははっと我に帰った。


...魔力を込めて攻撃しろ。そうすれば倒せるはずだ。


「わ、わかりました!」


ユリはユーキの体でその通りに攻撃し、なんとかスライムを討伐することができた。


「す、すまん、お嬢...。お嬢の体で無茶しちゃだめだよな...。」


「あ、いいんです。私もユーキの体で無茶苦茶しちゃいましたし...。もう少し自重します...。」


モンペンとユリは自分の体でないからこそ、もっと大切に扱わなければいけなかったと反省した。


対し、ユーキは無表情でそれを眺めていた。


スライムに襲われるユリ。


されど、中身は『モンペン』である。


『モンペン』なのである。


ユーキは様々な感情に翻弄されていた。


そして、彼にはある限界が近づいていた。


一行は足早に先を急いだ。



 その頃、ダンジョンのボスであるデーモンはそれはもう楽しみに一行を待ち構えていた。


体が入れ替わり戸惑っている連中を一方的にいたぶるのが、彼の趣味である。


デーモンの前にユリ達一行がたどり着く。少女の体はボロボロであり、銀髪の剣士はへたくそに剣を構える。デーモンはその様子に思わずほくそ笑んだ。


一行より、うつろな顔をした白いペンギンがよちよちと前に進み出てくる。


そのペンギンが目の前で拳をつくり構えた瞬間、デーモンの視界が真っ白に散った。


『ぶ!?』


顔面に強烈な痛み。そして視界一杯に広がるうつろな顔。


デーモンが白いペンギンに間合いを一瞬で詰められ顔面を殴られたと認識した瞬間、今度は白いふわふわなおててが凶器に変わり腹部をえぐった。


『ぶぎゃ!?』


デーモンは吹っ飛んだ。


倒れたデーモンの上に白いペンギンがすかさず馬乗りになり、うつろな顔をしながらも容赦なく顔面を狙って殴り続ける。デーモンは必死に両手で顔面をガードする。


『ちょ、たいむ、まって?やり直しさせて?』


しかし、白いペンギンは表情を変えず何かを発散しようと一心不乱に殴り続ける。デーモンはその様子に一層恐怖を感じた。


『ぶっ!ごめんなさい!もうやめて?クリアでいいからっ!お宝あげるからっ!』


一行はデーモンの心と体を一方的に打ちのめし、入れ替わりのダンジョンを攻略することができた。一行は元の体に戻った。



 デーモンからユーキに片手に乗っかるくらいの小さな宝箱が差し出された。


ユーキはその宝箱を開き、考え始める。


その様子にデーモンはビビり上がりながらも恐る恐ると解説をした。


『すみません...お気に召しませんでしょうか...?そちらの品は回避の奇跡を持つ首飾りでございます。どうかお持ちください。お持ちになりましたら、どうぞそちらの転送魔法陣で早くお帰りください...。』


デーモンは涙を浮かべながら懇願するように脱出を促す。


ユリとモンペンがユーキの背後で期待の眼差しを向けていた。


「悪いが今日も野宿だ。」


ユリとモンペンの希望は儚く消え去った。



 次の日の朝のこと。


ユリはモンペンのお腹を枕にして寝ていた。隣の温もりが不意になくなったので目を覚ます。


「あ、ユーキ、おはようございます。先に起きてたんですね。む?」


ふと違和感を感じ、自分の首元を見る。


「ユーキ、これっ!」


ユリは笑顔でユーキに駆け寄った。





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