第31話 魔王戦③
雑魚な少女は筋力も体力もないため、何の武器も持つことはできない。
しかし、魔法使いの記憶と想い、少女の想いが強く込められた言葉は鋭利な刃となって魔王ディーンの内を抉った。
そして、その刃はある存在にも届いていた。
ユリに魔王ディーンの全ての光の剣が放たれた時、甲高い音が響く。
いつまでたっても体に痛みが走らない。ユリは不思議に思いながら目を開けた。
「え?」
目の前には一本の光の剣が魔王に切先を向け浮いていた。
口が自然と動く。
「エデンさん...?」
その剣はその言葉に返事をするようにユリの周囲をくるっと回った。
「エデンさん!」
エデンである。
エデンが光の剣の一つとなって、ユリを襲った全ての光の剣を弾き返していた。
『また、お前か。』
ディーンから忌々し気な声が出る。
ユリの隣にユーキが立つ。失血のためかふらつきがみられるが、両手で剣を構えることができていた。
「本当に引き摺り出すとはな。」
「最強の剣士と最強の魔法使いさんがここに揃ってるんですよ!当然の結果です!」
「俺達が揃ってるからだろ。」
「え?えへへ、そうですね。」
二人は束の間笑い、ディーンに向き直った。
そこに、モンペンがボドーを背中に乗せ、マイを連れて合流を果たした。
「あ!?」
マイは瞬時に理解する。
「.....................................え?」
ボドーは理解するのに時間がかかる。
マイとボドーは光の剣に嬉しそうに笑いかけると、迷いのない目でディーンに対峙した。
モンペンは空中を漂うキラキラした剣に輝いた視線を向ける。じゅるっと舌なめずりをすると、ぐっと堪えディーンに対峙した。
ディーンからすると大変拍子抜けする集団である。雑魚な少女、気怠げな剣士、気の早そうな女に気の遅そうな男、うつろな面をした鳥、そして、死に損ないの人間の人格。
その一行に向かって魔王ディーンが呆れたように問う。
「何なんだ。お前らは。」
「ユリ、教えてやれ。」
「え、私ですか?そうですね...。」
ユーキに促され、ユリは魔王ディーンを見据える。
ディーンはまたしても意表を突かれた。
その少女の瞳はもはや揺れはなく真っ直ぐなもので、その堂々たる姿は雑魚な少女とは思えない、凛とした強さが秘められていた。
「どうも。特に、何者でもありません!!」
ユリが叫んだ瞬間、その強さを折ろうとするように光の剣が一行に襲いかかる。
マイは光の剣が振り下ろされるよりも速く動きそれを斬り伏せる。ボドーは飛び交う剣身を横から蹴りで薙ぎ払い、ひるんだ剣をモンペンがはたき落とした。
ユリは悠然と周囲の状況を見据え続ける。ユリの周囲はエデンの剣が飛び回り、光の剣を素早く斬り伏せ守っていた。その動きはまるでエデンが剣を握っているような俊敏さである。
光の剣が飛び交う中、ユーキがディーンに向かって駆け抜けていく。
魔王は目の前にさらに5本の光の剣を召喚し迫りくるユーキを狙った。
ユリとユーキの視線がぶつかる。
「皆さん、私を守ってください!エデンさんはユーキをお願いします!」
その言葉に、マイ、ボドー、モンペンがユリを囲い守る。
エデンはそれを確認すると、瞬時にユーキの隣へ移動する。ユーキがディーンと戦う周囲を飛び回り、降り注ぐ数多な光の剣を防いでいく。
ユーキは周囲の一切を気にせず両剣の魔王に向かって全力で剣を切り返し続けた。ディーンは二つの剣を交差させそれを受ける。その力強く俊敏な猛攻にディーンは後退を余儀なくされていた。
しかし、壁に追い詰める寸前で、ユーキの足が力なくよろけ、攻撃が止まる。ディーンはそれを逃さず渾身の反撃を振り下ろした。
『!?』
それは誘いである。ユーキは振り下ろされる大剣に対し斜めに剣を上げることで、滑らせ軌道を変える。そして、振り下ろされる勢いを助長するように全身の力で地面へ叩きつけた。ディーンの剣は深く地面を抉り、大きな隙となった。
体勢が戻りさえすればもう片方の剣による反撃に見舞われる。即刻とどめを刺す必要があった。
ユーキは剣を振るわずにエデンを見る。
しかし、エデンは躊躇する。彼の望む償いはこのような形では果たされない。そんなエデンの様子に全員が一斉に声を上げた。
「エデン頼む!」
「エデンなら大丈夫だよな!?」
金髪小僧!がんばれ!
「エデンさんお願いします!」
「しっかりしろ!勇者!」
「にゃあ」
程なくして、
『これが...お前の...選択か...。』
魔王ディーンは不敵な笑みを浮かべる。
突き刺さったエデンの剣は魔王の体に吸収され、魔王の姿に変貌が起きた。
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