第32話 再会

 破壊によって創造を齎す。その魔王は世界を破壊する役目を負っていた。


殺戮、破壊行為を行うため、予め、感情を有していない存在であった。


そのままあれば、何の躊躇も、疑念も持つこともなく、役目を果たす事ができていただろう。


しかし、戯れにより、人としての感情と仲間の温もりを知ってしまった人間の魔王は、己の責務と人間性との間で苦悩を重ねた。


人間の魔王が苦悩の末選んだのは、魔王と共に巨悪へと戻り、共に贖う道であった。


そうするはずだった。



 魔王の体にエデンの剣が吸収され、魔王の姿は人間の姿へと変貌を遂げる。ディーンの人格が絶えたためである。


「.........。」


エデンは何を発することなく罰が悪そうに俯いている。その様は、自分が今ここに立っていることは間違いであると言うようである。


そのようなエデンの様子に怯むことなく、マイとボドーが駆け寄り抱きつく。


「お前の苦しみに気付いてやれずすまない...!不甲斐ないとは思うが仲間でいさせてくれ!」


マイは仲間として一番そばにいながらも、その内に秘めていた苦しみに寄り添えていなかったことをずっと悔やんでいた。


「エデンは魔王でもいいからな!?勇者でもいいからな!?」


ボドーは、魔王でも勇者でもない、エデンの人間性が好きであった。


二人の様子にエデンは困惑の表情を浮かべ重い口を開く。


「ごめん。僕は魔王でもあるんだ。人も魔物も大勢を殺戮した償いをしないといけない。」


エデンは、罪のない多くの命を奪った償いとして、ディーンと共に消え行くつもりであった。その意思はディーンを刺し貫き、ひとり残った今でも変わっていない。


「死んで楽になるのは無しだ。」


「え!?」


しかし、ユーキがそれをピシャリと否定する。


ユーキも同様に多くの命を奪ってきた償いをしようとしていたはず。そんな彼から出た言葉とは思えず、エデンは動揺する。


「そうですよ。生きて償う方が死ぬより苦しいんです。魔王で勇者でもあるあなたにはやるべきことがいっぱいあるはずです!」


ユリの言葉に一同が頷く。


一同は魔王としての大罪を責めることなく、それと共にエデンが生きていく道を示していた。


「それは、できない。」


エデンは首を振る。


大丈夫だ!お前ならできる!がんばれ!がんばれ!

モンペンが一生懸命声援を送る。


「ごめん、できないんだ。」


しかし、エデンはそれに応えられない。


それを受け入れられない程の罪を背負っていた。


魔王として破壊を尽くした光景。


多くの命を奪ってきた感触。


そして、殺してしまった。一番そばにいて大切な存在を。



バリッ



「いっ...!?」


エデンが頬を押さえる。傷も痛みもそこにはない。


なのに、まるで引っ掻かれたような感覚である。冒険をしていた頃のように。


魔法使いがガミガミとエデンを叱るように。


「アルマ…。」


エデンが静かにその名前を呼ぶ。


暫し考え込むように俯きやがて顔を上げた。


「わかったよ。頑張ってみる。だから、みんな、見守っててくれるかな。」


エデンはどこかぎこちなく笑い、マイとボドーを抱きしめ返した。


一同はエデンが生きることを選んでくれたことに安堵し喜んだ。しかし、それも束の間のことであった。



 突然、魔王城が不自然に揺れ始める。


「エデン、そばにいさせてくれ!」


マイがエデンに強くしがみつく。この揺れはメテオールに違いない、世界の終わりだ、それなら近くにいたい、そういった思考回路である。


「こちらこそだよ。ちなみにこの揺れは全地域へのメテオールが解除されたから魔王城にたまった魔力が暴走してることによるものだよ。」


エデンがマイに笑いかけながら、衝撃的な事実をつらつらと語る。先程までしんみりとしていた男とは思えない豹変ぶりである。


勇者エデンとはそういう男である。


「え、それ大丈夫だよな?やばいかな?」


「まもなく落ちて爆発するね。」


その言葉にボドーとモンペンは一瞬もぺ?としたが、兄弟のようにギョッとした顔に変貌を遂げる。


「今、海で爆発するように指示したから大丈夫だと思うよ。たぶん。」


「......あと、どれくらいもつ?」


ユーキが怪訝な表情を浮かべ尋ねる。エデンが自信のなさそうな言葉を発した時は大抵大丈夫ではない。


勇者エデンとはそういう男である。


「5分、いや、3分かな?大丈夫大丈夫。それまでに避難すればいい話だよ。僕がいっきに全員脱出させてあげる。」


どこか楽しげなエデンの手に青い魔法陣が光る。その魔法により一同の体が宙に浮き始める。


「エデンさん、あの、大丈夫ですよね!?私、不安なんですけど...。」


ユリの不安は尤もである。


全員というのは魔王城に侵入している大勢の冒険団も含めているのだろう。


そんな大勢への魔法を本当に使うことができるのか。


そして、今まで青の魔法陣を隠していたのならいつからそれを使っていないのか。


怯えるユリを安心させるようにエデンが優しく微笑んだ。


「僕もだよ。魔法使うの初めて。緊張するなぁ。」


勇者エデンとはそういう男である。

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