第26話 暴走した魔王城
一行は魔王城を海へ誘導するため、宮殿の奥の壁に埋め込まれている魔王城の核に向かう。魔王城の核は巨大な赤い宝石の形をしており、生きているように光っている。
「おにぎりおにぎり......。」
ユリは魔王城の核に触れ、おにぎり念仏を唱えつつ魔力を流し続ける。それに従い、魔王城は下降しながらも海へと向かっていた。
ユリは緊迫した状況の中、仲間の存在をそばに感じることで落ち着き、集中することができていた。
ユリにユーキとモンペンへの想いが溢れる。ユーキにあの日会わなければ、モンペンにあの日話しかけなければ、ただの農家の娘だった弱い自分が、今日まで生きてこれたかもわからない。
「私、ユーキとモンペンに会えて良かったです。」
ユリがふと感謝を口にする。何故か今言わなければいけない気がした。
お嬢と弟は俺の最初の友達だ!あの時の魚、飛び上がるくらい美味かったぜ!
モンペンも出会った時のことを思い出す。モンペンの初めての人間と魔物の関係を超えた絆。大切な始まりであった。
「そうだな。悪くなかった。」
ユーキも目を閉じ静かに言う。
しばらく魔王城が移動を続けると、宮殿の窓に海が広がる。海に誘導することができたようだ。
その時、魔王城に一際大きい縦揺れが起き、ユリの体が跳ね、宙に舞った。
「わっ!」
近くにいたモンペンはもぺーとそれを眺めた。
(...え!?無視ですか!?)
ぎゅっ
「ふぎゅ!?」
宙に投げ出されたユリをユーキが後ろから咄嗟に抱き止める。ユーキはモンペンを責めるように睨むが、モンペンはそれをもぺ?と流す。モンペンはユリ達のそばにいたせいか、様々なことを学習し彼なりの器用さを手に入れていた。
ちなみに、ユリは恋愛については経験がない故に怖いもの知らずである。自分から器用に無防備な相手へ攻めまくるのは得意であるが、一方でそれを受けるとなると大変不得意であった。
「.........もう少し移動したら脱出するぞ。」
「あわわわ...わかりました...。」
(だ、だだだ抱きしめてくれてる!?しかも、ユーキ少し照れてる!?)
いつもなら無視を決められ触れられることもない相手である。しかし、背中に感じる暖かさは確かなもの。表情は見えないが、その声には多少の気恥ずかしさが含まれている。
ユリはすぐさま顔が熱くなり集中が途切れた。
途端、ユリのおにぎり魔力による指示が不安定になり、魔王城はぐらぐらとさらに揺れる。
それにより、抱きしめる腕に力が込められた。
バキッ
「ごべら!?」
ユリはユーキに力強く抱きしめられたことと、それにより背骨より不穏な痛みが走ったことで霰もない声が漏れる。
「......すまん。大丈夫か、ユリ?」
ユリからの反応はない。もはや意識と共に魔力は全て霧散し、魔王城は今にも墜落しようとしている。
一行は脱出することにした。
俺に掴まんな!そういや、泳げるんだった!
海を見て、モンペンは自分の本能を思い出す。モンスターペンギンは泳ぎが得意である。
魔王城が海面に近づき、一行は海へ飛び降り脱出した。
一行が脱出して間もなく、魔王城は海に墜落し、魔力を破裂させ爆発した。
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