第25話 別れ

 破壊によって創造を齎す。その魔王はひとり世界を破壊する役目を負っていた。


魔王が姿を取り戻した時、人間の人格が大切に抱いていた、感情、仲間への想いは強靭なものであり、全てを消し去ることはできなかった。


その感情は動きを鈍らせ、想いは再び姿を与えた。


結果、痛恨の一撃をその身に許した。

 



 胸を貫かれ、倒れた魔王が消えていく。


『あとは、頼んだ。勇者達よ...。』


それは自分の役目をやり遂げたような言葉である。やがて、魔王は光の粒となり、その姿を消した。


一同はそれを静かに見守った。


「.......エデン...勇者はお前だよな?...お前もだからな...。」


ボドーの小さな呟きは誰からも返事が返ってくることなく、その場に落ちて消える。マイは震えながらボドーの肩を抱く。


(忘れません...。エデンさんがここにいたこと、苦悩も、がんばりも...。)


ユリはエデンの存在を頭に焼き付けるように何度も、何度も思い出した。



 しばらく一行がその場を動かずにいると、突然、魔王城が不自然に揺れ始める。


「みんな...ありがとな!」


それに対し、マイはさっそく早とちりをする。この振動はメテオールに違いない、世界の終わりだ、みんなにお別れを言おう、という思考回路である。


「待って!まだ早いです!これはメテオールが解除されたことで魔王城にたまった魔力が暴走してるんだと思います。落ちて爆発します!」


「やっぱり終わりじゃないか!さよなら!」


ユリは魔力の流れを分析し告げる。その言葉にマイは確信を得た行動を始める。ボドーとモンペンはもぺー?ととしていたが、言葉の意味を理解した途端、二人揃ってギョッとした表情に変貌した。


「あ、大丈夫です!私が爆発する前に魔力で魔王城を海に誘導してみせます!先に脱出しててください!」


ユリは夜の国『ソル』で魔王城がユリの叫びに従い、移動を開始したことを思い起こす。先程まで青い魔法陣に触れていた今なら、魔王城への呼び掛けが届くと踏んでいた。


「...わかった!そこの街で待ってるからな!?絶対にくるんだぞ!」


マイは即座に決断し、ボドーの手を取り宮殿の出口へと駆け出す。魔王城では多くの冒険団が今もなお魔物と戦闘を繰り広げている。犠牲にならぬよう即刻退避を呼びかける必要があった。


「あ...マイ、待ってくれ!ユリは大丈夫か?本当に大丈夫なのか!?」


ボドーはマイに手を引かれながらもユリを案じ何度も声をかける。


「私には策があります!任せてください!いつものように器用にやっときますから!」


ユリは笑みを見せ、手を振った。



 マイとボドーが去った後、ユーキとモンペンはその場に残っている。ユリは再度声をかける。


「お二人もどうぞ!行ってください!」


「策って何だ。」


「それが、手品のタネみたいに人に教えてはいけないものなんです!」


「ユリ、無理するな。」


「そんな、無理してない、です...。」


ユリの声は次第に小さくなる。


モンペンがユリにもふっと優しく擦り寄り、声をかける。


お嬢、自分より守るつもりだろ。だめだぜ!お嬢も大切だ!


ユリはその暖かさに体の強ばりが解け震え始める。その目には涙が溢れる。


「......すみませんっ...。ひとりは怖いですっ...。弱くてすみませんっ...。不安なんですっ...。一緒にいてほしいです...。」


ユーキとモンペンを前にユリは本音が溢れ、泣きじゃくりながら訴える。


ユリはどんなに器用でも、強くなったつもりでも、人一倍思い込みが強いだけの雑魚な少女に過ぎなかった。


ユリの弱々しい訴えにユーキは頷き、モンペンは嬉しそうに笑う。


ずっと一緒にいた仲間を前に、器用SSの取り繕いは意味を成さなかった。



 

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