第24話 魔王戦②
ユーキと魔王ディーンの攻防が続く。
ユリ達がダークダガーの召喚を妨げ続けてはいるが、すでに、10匹以上は周囲を飛び交っている。ユーキはその襲撃を受けつつ、魔王に決定的な攻撃を与えられずにいた。
『弱者が。くだらない足掻きを。』
ディーンはユーキに両の剣撃を重く叩き込みつつ、ユリとモンペンの懸命な様子をみて嘲り笑う。
「は、随分と、弱い者が嫌いなようだな。」
ユーキが息を切らせながらそれに受ける。その体には生傷が至る箇所にみられる。
『何も成せず、他者に依存し、周囲すらも弱体化させていく存在。そのような足手纏いは死して当然だな。』
ユーキの剣を握る手に力が篭る。
「...ユリを、殺そうとしたのは、そんな理由か?」
その声には静かな憤りが込められていた。
『...ん?』
「ん?」
しかし、ディーンの反応は存外に素っ頓狂なものであった。ユーキもその反応に理解が追いつかずつられて声が出る。
あたりにかなり不思議な空気が流れる。
ディーンは無言となる。問いに対し何と答えるか純粋に考えていた。戦いの最中であるにも関わらず、ディーンは思考する。
青の魔法陣を有した少女の殺害を目論んだのは『魔王ディーン』ではない。
人間の人格『エデン』である。
その人格が事を成す直前に何故か止まったから良いものの、ディーンは目の前で青い魔法陣の力を失うところであった。
ディーンは戯れに人間の真似事を始めただけで、人間の人格が芽生えることとなるとは思いもよらなかった。
最も想定外なのは、自分が完璧に支配できるはずの弱い人間の人格に暫し抑え込まれたことであった。
それに対し、ディーンは左手より侵食を始め、周囲の人間の殺害を図った。しかし、一つの命を奪った後、強く抑制され、挙句、先立って幕を降ろされ未だ叶わずにいる。
殺戮を抑制し、破壊を妨げ、魔王の弱体化を図る。魔王である自分から生まれたにも関わらず、それは相反した勇者の所業である。
魔王ディーンは破壊を役目とするべく、予め感情は有していない。しかし、不可思議なことに、思い起こせば起こすほどに、邪魔ばかりするその存在にひどく不快感が溢れる。
「一体...何なんだ?」
その頃、ユーキは問いかけに答えることなく直立し、しかも、何故か勝手に殺気だち始めた魔王に対し、首を傾げていた。
そこに、マイとボドーが宮殿に辿り着き合流を果たす。
「エデン!帰るぞ!」
「エデンだよな?そうなんだよな?」
ディーンはその不快な存在の名を自身に投げかけられたことに、さらに不快感を募らせる。
『我は魔王ディーンである...!弱者エデンではない...!』
魔王ディーンの声には憤りが込められる。二人に剣を向けた時、周囲の魔物が軌道を変え襲いかかった。
ユーキ、マイ、ボドーの三人はお互いの背を守りつつ、周囲の魔物と魔王への攻撃を図る。
戦闘の中、マイとボドーが魔王ディーンに向かって懸命に呼びかけを続ける。
「エデン!もうやめよう!」
「エデン!?そこにいるんだよな!?そうなんだよな!?」
しかし、その声は当人に届いた様子はなく、ディーンの不快感へ油を注ぐ結果となる。ついには頂点に達し、大振りな攻撃がみられるようになる。
その様子に確認を特技とするボドーは気づく。今の状態ならばと起点をきかし、マイとユーキの周囲に狙いを定め、魔物を蹴りで薙ぎ払う。
「やるしかないんだよな?エデン!お前のためにも、力づくで止めてやるしかないんだよなぁ!?」
ボドーは顔を歪ませ叫ぶ。それは、自分にもマイにも言い聞かせるような言い方である。大切な仲間にこれ以上の罪は重ねさせない。優しい彼はそのように考えた。
周囲の魔物の襲撃が一瞬止み、ユーキがディーンの片方の大剣を弾いた時、マイが入れ替わるようにディーンの懐に剣を突こうと構える。
「あ、あれ?」
手が震え剣を突き出すことができない。普段の通りなら考える間もなく体が動くはずだった。しかし、大切な仲間を傷つけることを身も心も頑なに拒否していた。
そこに、すぐさま大剣が振るわれる。
「すまない...やっぱりできなかった...。」
「エデンさん!!だめです!!」
振り下ろされる前にユリが叫ぶ。その声の中にもう一つ、何かが小さく響いた。
鳴き声である。
刹那。
『!?』
ディーンの振り下ろしていた剣を握る手の力が不自然に抜ける。忌々しいその存在が脳裏を掠める。
『また...お前達か!!』
その貴重な隙を逃してしまうほどに一同は躊躇していた。
しかし、ユーキは前に踏み込んでいた。
魔王を見つめるその瞳には、一切の躊躇はみられない。
彼が殺すと決め躊躇したのは、『フレスコ』にて、ひとりの少女を前にした時のみである。
時を移さずして、ユーキの剣が魔王の胸を貫いた。
青い魔法陣が消失し、ユリとモンペンはその場にへたり込む。ユリの魔王を見つめる瞳が悲しげに揺れる。
ユリは理解した。
魔王と共に贖う。
この結末をエデンは望んでいたのだと。
『これが、お前達の選択か..。』
魔王ディーンはまるで彼のように苦笑し倒れた。
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