第23話 魔王戦①
一行が宮殿の中に進むと、魔王が宮殿の玉座に座り待ち構えていた。
『人間一人に魔物一体か。舐められたものだな。』
「あの...?誰か忘れてません?」
「相手にされてないんだよ。」
モンペンは数えてもらえてほっこりとしている。
「エデンさん!帰りましょう!こんなこと、やめて良いんです!」
ユリは気を取り直し魔王に向かって呼びかける。
『我は魔王ディーンである。エデンは我の人間の人格。この姿に戻った時、不要なものは消し去った。エデンの人格はどこにもない。』
「そ、そんな...。消し去った!?」
(エデンさんのあの葛藤も、苦悩も、全てがなかったことにされるなんて...。そんな...。)
ディーンの言葉にユリはひどく動揺し、それ以上の言葉を紡ぐことができない。
ディーンは構わず立ち上がりユーキに迫る。
『今魔力はメテオールに集中している。お前と同じく剣で勝負をしてやろう。』
ディーンは自分の身の丈と同じ巨大な剣を両手に構える。
ユーキもそれに応じ剣を構えた。瞬間、その後ろの地面に青い魔法陣が怪しく光った。
「ユーキ、後ろです!」
ユーキが振り返ると青い魔法陣から黒い虎のような魔物が飛び出し牙を向けていた。それを振り向き様に斬り伏せる。魔法陣より魔物の召喚が続く。
「これはダークダガー!?虎のように素早く強い魔物です!...嘘つき!剣だけじゃないじゃないですか!」
『えっ。』
「...え?」
『何を言っている。我は剣で勝負している。お前は目が悪いようだな。』
(天然!?魔王ディーンは本当にエデンさんなんだ...。)
ユリは心の隅でディーンとエデンは別の存在なのではと願っていた。しかし、ディーンの彼と重なる純粋さに希望は絶たれる。
ディーンがユーキに迫り剣を振り下ろす。ユーキはその剣を受け、もう一つの剣をいなす。連撃の間に剣を振ろうとするが、攻撃の余地なく魔物達が襲いくるため、それを斬り伏せつつ後退せざるを得ない。
その戦況はいくら剣術に長けていても多勢に無勢である。四方八方より忍び寄るダークダガー達の襲撃を受け、ディーンへの攻撃がままならない。その間も青い魔法陣より強力な魔物が次から次へと召喚され、状況は悪化の一途を辿っていた。
ユリはモンペンに乗り、魔物から守ってもらいつつその状況を見る。
(このままでは数で負けてしまうのも時間の問題です...。あの魔法陣をなんとかできないかな...。)
「モンペン!あの青い魔法陣のところに向かってください!」
モンペンは飛びかかる魔物をぺちぺちとはたき落としながら魔法陣の元へと進む。
ユリは召喚の合間を見計らい、青い魔法陣の端に触れる。それは、ユリの心にしばらく存在していたせいか自分のものであるように不思議と馴染んだ。
ユリはそこに自分の魔力を流し妨害を図る。
「おにぎり...わっ!」
ばちん!
瞬間、火花が飛び散り手が弾かれる。異物と認識された拒否反応である。それによりいっとき魔法陣が乱れ、召喚に滞りがみられた。
しゃがみ込む無防備なユリに容赦なく魔物が飛びかかる。べしっとモンペンがそれをはたき落とし守護する。
お嬢は俺が、自分より...守る!
モンペンはそう言いつつ襲いくる魔物を懸命にはたき落とす。数で攻められ、噛まれたり、爪で裂かれたりと怪我が増えていく。モンペンは強敵ダークダガーを討伐できるような爪もなければ牙もない。それでも、自分の大きな体を盾にしてその場に居座り、ユリに魔物を触れさせることはなかった。
ばちばちばちばち!
「うう...。痛くない痛くない...。」
ユリは火花が舞う中、青の魔法陣に触れ魔力を流し続ける。それはまるで火に触れているような熱さである。両手に火傷が広がっていく。しかし、頑なにその手は離さない。その苦痛よりも、いつもひとりで戦い続けている存在の役に立ちたいという想いの方が勝っていた。
ユリとモンペンの行動に気がつき、ユーキが近くに後退し、周囲の魔物を斬り伏せようとする。
モンペンがそれを止めるように「ギィエエエ!」と威嚇する。ユリはその声に驚きながらもユーキに声をかける。
「来るな!この程度へでもねぇ!とのことです。ここは私達に任せて集中してください!仲間じゃないですか!」
ユリは脂汗をかきながらも気丈に笑う。モンペンはぐにゃりと不自然に口を歪ませる。不敵に笑っているつもりである。
そこには、数々の苦境を共に乗り越え、お互いを気遣い、懸命に戦う、仲間という関係が確立されていた。
「そうだな。」
ユーキはその関係をさすがに認めざるを得ないというように静かに呟く。しかし、彼の中では、どんなに大切な存在であろうと、とある事項が揺るぐ事なく決定していたのだった。
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