『正当』ルート

第22話 魔王城での戦い


 魔王の宣告から5日後、ユリ達一行は海の街『オセアン』の冒険団の拠点に到着した。


冒険団の拠点では多くの冒険団メンバーが集い、戦いに向けて備えている。


「良かった...!来てくれてありがとな!」


「本当にユリだよな?ユーキだよな?」


先日の約束を守り来てくれたユリ達にマイとボドーが近寄り、嬉しそうに声をかける。


「はい。友達が困ってるんです。当然ですよ。」


ユリはマイに手を握られながら笑いかける。


「そうだな!仲間だもんな!」


「...。」


その言葉にユーキは居心地の悪い表情を浮かべた。


 魔王城へ出発する時刻となり冒険団は浮遊する魔王城の下に集合する。一行は冒険団の最後尾につき、魔王城を見上げた。


「決戦ですね...!」


「そのようだな。またなユリ!」


突如、マイが意気込むユリに向かって唐突な別れを告げる。


「え!?いやいや!私も行きますよ!」


「お前戦えないだろ。」


ユリは器用ではあるが『無能力』であり、戦うことができない。それにも関わらず引き下がろうとしないユリの様子に、ユーキは見兼ね、迫る。


「いやいや!何かできますよ!たぶん。あ、やだ!やめてください!ユーキのえっちーーー!!」


程なくして、ユリは木に縛りつけられモンペンと共に地上に残されることとなった。


「しっかり見張ってろよ。」


マジか!?よっしゃ俺に任せろ!!弟よ!!


モンペンは弟の初めてのお願いに今までにない程に張り切る。その姿にユーキはどことなく不安を感じるも、その場を後にする。



 冒険団全員が魔王城に侵入を果たし、ユーキ、マイ、ボドーの三人も魔王城へ侵入した。魔王城の中では冒険団が魔物と死闘を繰り広げている。冒険団の協力により、三人はすぐに最前線に辿り着く。


「思った以上に魔物が多い。時間が心配だな...。」


マイが切迫した状況に焦りを感じつつ駆ける。


 遠くに敵が見えた瞬間、マイはさっそくひとりで突っ込み剣を叩きつけた。しかし、それを同様に剣で受け止められ、マイは意表を突かれる。


「むむ!?」


剣を構えた魔王配下の強敵であった。一度剣を交えただけで相当な手練れであることがわかる。


「手強いな...。時間が惜しい!先へ行け!」


一人の敵を前に数人が時間を割る余裕はない。マイがその場に残り戦うこととなる。一行は先を急ぐ。


 少し進むと、拳に禍々しいナックルをつけた強敵が待ち構えていた。ボドーを好戦的な姿勢で睨みつけている。


しかし、ボドーは別の方向を向き、その熱い視線に気づく様子はない。敵は負けじと懸命に視線を送り続ける。


「...?」


ボドーは何かを察知し、ふと周囲を見回す。ついに自分を凝視している敵を発見する。


しばし間が空く。


「......あっ。俺かな?」


「お前だよ。」


敵も頷く。


「...ほう?俺なのか?俺が残っていいんだよな?いいよなぁ!?」


ボドーはようやくその熱い視線に応じ、その場に残った。ユーキは先に進む。


 しばらく進むと魔王城中央に聳え立つ宮殿に辿り着く。宮殿の周囲をダークドラゴンが群れを成し守っていた。


「ここは私に任せて行ってください!」


モンペンに乗ったユリがユーキの前に現れた。その頭をユーキが掴み上げる。


「いや、お前には無理だ。それよりお前、なんでここにいる。」


「...えっ。まさかあの程度で拘束したつもりじゃないですよね?あまりに楽勝すぎて『先に行っててね』って意味かと思ってました。」


ユリは縛られた後、速攻縄抜けし、モンペンに乗り器用に立ち回ることで、魔物に出会うことなく先回りを果たしていた。


ユーキがモンペンを責めるように睨む。


おいおい。弟よ。俺は見張ってるぜ?


モンペンはユリを目をかっぴらき見ている。確かにある意味見張っている。これでもモンペンは律儀に弟のお願いを守っているつもりである。


その様子にユーキは長くため息を吐く。最前線に来てしまった以上、ユリとモンペンを今更帰す選択肢はない。


「私に考えがあります。」


ユリはダークドラゴンの群れに対する策を考えつき、パキッと指を鳴らした。



 ダークドラゴン達にモンペンに乗ったユリがある策を胸に近づく。


(水の都『アクアランド』で魔物に食べられそうになったことがあります...。たぶん私は魔物にとって魅力的なんです。それを器用に逆手にとってみせます...!)


ユリは自分が周囲と比較し器用であることに自信を持ち始めていた。しかし、容姿は器用とは特に関連はない。ユリは勘違いをしていた。


「こんにちは!私を食べたくはありませんか?」


 ユリはダークドラゴン達に挑発的な態度で声をかける。ダークドラゴン達は戦闘力も魅力もないそれを白けた目で眺める。


しかし、その下にいる白い餅のような鳥を発見し各々凝視を始める。


「肉付きがよくて、もちもちしています。」


モンペンが足を少し動かすと白いお腹がたぽんと揺れる。その様子に全てのダークドラゴンががばっと起き上がる。


「先着一名様です。」


ダークドラゴン達はその言葉を聞きお互いをゆらりと怪しく見やる。


「一番強くてかっこいいドラゴンさんのものです!」


ギャアアアアア!!ギャアアアアア!!


瞬間、ダークドラゴン達は雄叫びを上げながら激しく同士討ちを始めた。


「や、やった!うまくいきました!」


ドラゴン達の想像以上の食いつきぶりにユリが喜ぶ。


ユーキは何も言わずに功労賞であるモンペンの頭をわしわしと撫でる。モンペンには知る由もなく、もぺーとしていたがやがてほっこりとした。


「さて、行きましょうか!この宮殿の中にきっと、エデンさんが待っているはずです!」


その隙に、ユリ達は宮殿に侵入した。

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