第21話 ⭐︎分技点⭐︎
モンペンが朝に目を覚ました時、周囲にはどんよりとした重い空気が漂っていた。
空腹であることをユリに伝えても、もぺ?と動かない。マイとボドーに何があったか尋ねても、もぺーとして応答しない。
モンペンは三人のその様子に怒りが込み上げる。
もっぺもぺしてんじゃねぇよ...。俺は、腹が、減ってんだけどぉぉぉおお!?
自分を棚に上げたモンペンは目と口をがっぱり開けて容赦なく三人に飛びかかった。
その後、マイとボドーは鳥が苦手になった。
ユリ、マイ、ボドーは鳥の噛み跡と涎だらけになりながらも、状況を整理する。ユーキはどうどうと怒り狂うモンペンを宥めている。
「エデンの魔法、見たことなかった...。ずっと隠してたんだな...。」
マイが俯きながらエデンの言動を思い起こす。マイはいつもの忘れ事だと思い、少しも疑念を持ったことがなかった。
「エデンは魔王だったのか?勇者だったよな...?」
ボドーは未だに目の当たりにしたことを信じられずにいる。それ程に信頼は厚いものだった。
「私、エデンさんのやっていたことが全て嘘だったとは思えません...。とても辛そうに葛藤している様子でした...。」
ユリは昨夜のエデンの苦しげな様子が頭を離れずにいる。
「そうだよなぁ...。俺たちは、楽しかったよな...?嘘じゃ、ないよな...?」
ボドーが今までの勇者一行としての冒険を思い起こし堪えられずに涙を流す。その肩をマイが支える。
「ボドー君...。私も同じ気持ちだ...!でも、今はとりあえず冒険団に行こう...。恐らく先程の魔王の言葉で混乱してると思う。」
「はい。そうですね...。」
一行はエデンの帰りを信じて、彼が魔王だったことは冒険団には秘密にすることにした。
一行は『グレル』に戻り、街にある冒険団の拠点に向かった。
冒険団拠点では周囲にいた冒険団のメンバーが集まり、緊急会議となる。魔王城の現状と魔王戦について議論された。
現在、魔王城は海の街『オセアン』の近くに浮遊している。魔王城は全地域にメテオールという超級の魔法を降り注ぐべく、魔力を蓄えている。
魔王城の下には転送魔法陣が設置されており、それで中に侵入することができる。魔王城の中は要塞となっており、今まで生成され放置されていた魔物がひしめいていると思われる。
今後の戦いについては、魔王の宣告から5日後、『オセアン』に参加できる冒険団メンバーを集合させ、総戦力で挑む。
勇者一行は一番最後に魔王城に侵入し、冒険団が魔物と戦闘する中、前線に進み、魔王の討伐を目指す。
そういった方向に決まった。
「ユーキは、勇者一行として一緒に来てくれるよな?」
マイが不安と期待を寄せた眼差しでユーキに尋ねる。しかし、ユーキは返事をしない。
「えっと...。ちょっと考えさせていただきますね。」
ユーキの様子にユリが代わりに答える。
「『オセアン』の冒険団の拠点に来るんだぞ...?待ってるからな....?」
ボドーは心配そうに繰り返す。ボドーとマイは先に『オセアン』に向かって出発し、一旦別行動となった。
ユリ達一行はそのまま『グレル』の街の宿で休んでから今後の方向を考えることにする。
宿にて。
ユリはベッドに横になっている。青の魔法陣より解放され、ようやく安眠できるはずだった。しかし、エデンの言動が頭を離れず寝れずにいる。
(エデンさん...魔王だったなんて...。でも、勇者でもあった...。どれだけひとりで苦しんでたんだろう...。)
「寝れないのか。」
窓のそばに立ち、外を眺めながらユーキが尋ねる。
「はい。ユーキも考え事ですか?」
「やることは決まってる。」
「エデンさんを、殺すんですか...?」
ユーキは返事をしない。肯定の意味である。
「...!」
ユリは少しの間口を結ぶ。やがて口を開いた。
「ユーキもエデンさんも不器用ですね。」
エデンを殺さずに済む道は選べないのか。
エデンがあれほどまでに苦しみを抱えずに済む道はなかったのか。
二人にとって、自分の在り方を変えることはどうしてこうもままならないのか。
そんな二人を想い、ユリは悲しげにため息を吐く。
「明日、『オセアン』の冒険団の拠点に向かって出発する。今日はもう寝ろ。いろいろあって疲れただろ...。」
その言葉にユリは顔を上げる。ユーキの心は最初から決まっていた。それでもマイの問いに返事をしなかったのは、混乱しているユリへの気遣いであった。
ユリはその気遣いに気づき少し気が緩む。すると急激な眠気に襲われていき、目が閉じていく。精神的に限界となっていたようだ。
(私は、ユーキを公正して、勇者一行の力になってもらうことを願ってた...。このままの流れで『オセアン』に向かえば、それは叶う。魔王を倒すことが正当...?本当にそれで良いんでしょうか...。)
微睡の中、ユリには小さい鳴き声が聞こえた気がした。
⭐︎二つのルートに分技します。
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