外伝2 勇者一行と試練のダンジョン


 これは、ユリが故郷を旅立つ、数日前の話である。 


 エデン、マイ、ボドー、魔法使いは最強の武器を求め、試練のダンジョンを攻略することとなった。


「ここはそれぞれ苦手なものを試練として与えられるらしい。でも僕らならきっと大丈夫!苦手なものはみんなで補い合おうね!」


エデンが攻略法について一同に声をかける。


「よし!わかった!さっさと攻略だーー!」


話を聞いていなかったのか、マイがピューンとひとりで走り去っていく。


「!?」


魔法使いはマイの行動に驚愕する。


「マイ!?なぜだ!?どうしてお前はそうなんだぁぁあ!?」


ボドーが悲しげに叫ぶ。しかし、すでに遠くに走り豆粒大の姿になってしまったマイには届かない。


 一行はひとり突き進むマイを追うことにした。


マイは気が早いだけではなく、勇者一行の中でも一番足が速いため、その距離はなかなか縮まらない。


「あれ、ボドーがついて来てない。」


エデンが気付き魔法使いに声をかける。振り返るとたしかにボドーの姿が見えない。

魔法使いはボドーがなんとなくどこかで立ち止まってしまっていると考える。


「君はボドーと合流して。僕はマイを追うから。」


エデンは駆け出す。その方向は明らかにマイの姿が消えた方向ではない。


「!?」


魔法使いが慌てて止めようとするがエデンは「大丈夫だよー」と返し走り去る。


勇者一行は攻略開始数分でバラバラになった。



 その頃、ボドーはまだスタートすらしていずにスタート地点で突っ立っていた。


「歩いた方がいいかな?走った方がいいかな?」


ボドーが意を決してスタート地点から一歩進む。すると、待ってましたと言わんばかりに看板がにょきっと地面より生える。


看板には『100点を取れたら終わり』と書かれている。


呆けるボドーの目の前にもぐらたたきがにょきっと用意された。


「ほう、叩いていいんだな?そういうことなんだな!?」


もぐらが穴からひょこひょこ頭を出す。


「叩いていいか?あっ...。叩いていいよな?あ...。!叩かせてくれるかい?ああっ!」


ボドーはもぐら相手に確認しながら叩こうとする。勿論もぐらは返事をすることも待つこともない。ほとんど逃してしまう。


「グス...叩かせてくれるやついないか...?」


もぐらからの応答はない。ボドーは少しずつ涙目になっていった。



 走っているマイの目の前にぼわんと看板が現れる。マイの10m先にはゴールの旗が見える。


『彼をゴールに導け』


「ふん。ゴールなんてすぐそこじゃないか。簡単だな。それで、誰をゴールに導くんだ?」


マイが足元を見ると手のひらサイズの亀がプルプルと震えている。亀の餌であるキャベツの切れ端も近くに落ちている。


「...。」


マイは無言で亀の前に餌を見せる。餌に亀は気づき、ゆっっくりその方向に足を進める。


ジリ......ジリ......ジリ......ジ......ピタ。


「...はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」


ジリジリ......ジ.....ジリ.......ピタ。


「うううあああああああ!!」


マイの絶叫がこだました。




 エデンはその頃、マイを追いかけていたことを忘れテキトーに道を進んでいた。エデンの前に看板が飛んできてザクっと突き刺さる。


看板には『せかいの中心にいる虫は?』と書かれている。


「なにこれ。何を意図してるのかさっぱりわからない。」


エデンはその看板を前に10分ほど立ち止まる。


看板に文字が追加される。


『これはなぞなぞです。せかいの中心にいる虫は?』


エデンはその看板を前に20分ほど考える。そして口を開く。


「なぞなぞってなんだっけ?」


看板に文字が追加される。


『なぞなぞ:問いかけに対してとんちを利かせた答えを要求するクイズである。せかいの中心にいる虫は?』


「...?字が小さくて読みにくいな...。」


瞬間、天から大きな看板が勢いよく降ってきてエデンの目の前にズドンっと突き刺さる。


「うわぁ!?」


『なぞなぞ:問いかけに対してとんちを利かせた答えを要求するクイズである。せカいの中心にいる虫は?これでいいだろ。さっさと答えろ馬鹿勇者』


「ふーん、なるほどね。お望み通りすぐ答えてあげるよ!」


エデンは文字を読み返す。


「世界の中心にいる虫...?なにそれ...。」


エデンは巨大な看板を前に格闘を続けた。



 みんなを探しながら彷徨う魔法使いの前に看板と通り道をコの字に塞ぐ壁がサッと現れる。


看板には『倒せ』と書かれている。


魔法使いの目の前にバッタが現れる。


「!?」


魔法使いは懸命に周囲の抜け道を探す。壁をカリカリと引っ掻いてみる。しかし、壁は頑丈であり、傷一つつかない。


バッタは無情にも跳ねながら魔法使いに近づき追い詰めていく。


魔法使いは目を瞑る。


プチ


バッタは靴に踏まれて死んでしまった。


「大丈夫?何かあったの?」


エデンが気づかずに踏んでしまったようだ。


エデンはなぞなぞに対し、虫の名前を当てずっぽうで答えることで比較的早めにクリアすることができていた。偶々壁を見つけ、魔法使いを発見することができた。


「なるほど、『倒せ』ね。君の殺さずも相変わらずだね。大変でしょ。」


魔法使いは俯く。


 その時、ぼんっとマイとボドーが変わり果てたカイワレ大根のような姿で目の前に現れる。試練を全員クリアできたため集合したらしい。


「こ、ころしてくれ...。もう彼とは関わりたくない...。」


「俺は、できたのか?それとも、まだ続いているのか...?」


二人はそう力なく呟き、倒れた。


 しばらくすると目の前に宝箱が現れる。試練のダンジョンを攻略した報酬である。一同は苦労が功を成したことに大変喜ぶ。


「いい?みんな、開けるよ。」


エデンが宝箱に手をかける。魔法使いはコクリと頷いた。


「じゃーん!」


エデンが宝箱を開くと立派な弓矢が出てくる。魔法使いは驚愕する。


「これが最強の弓矢か!やったなエデン!」

マイがエデンを見る。


「やったねボドー、装備してみてよ。」

エデンがボドーを見る。


「マイ!使えるよな?やってみせてくれるよな?」

ボドーがマイを見る。


あれ?

一同は固まる。弓矢を使える者がいない。


あまりの計画性のなさに魔法使いの怒りはぶちっと頂点に達し、その場に雷の魔法が落ちた。


「「「ぎゃああああああ!」」」



 最強の武器を何の未練もなく速攻で売っぱらった一行は宿に戻る。


「明日はこのお金で美味しいものをいっぱい食べような!」


マイが赤髪をアフロにしたまま、宿に帰る。


「ステーキかな?ステーキだよな?」


ボドーが青い髪をチリチリに焦がしながら宿に帰る。


魔法使いは金髪を茶髪にして煙を出しながら、エデンが立ち止まっているのに気付き声をかける。


「にゃあ。」


「アルマ、魔王は倒そうね。」


魔法使いはふるふると首を振る。


「...行こ。」


エデンは魔法使いを抱っこして宿に帰っていった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る