第19話 青の魔法陣の謎②


 ユリ達と勇者一行は、青い魔法陣について調べるため、『ソル』の近くにある、煌びやかな街『グレル』に向かった。


『グレル』では、数多くの魔法使いが滞在し、そこで情報交換、魔法の研究等を行っていた。


「ユリちゃんのこと、鑑別の魔法使いに調べてもらおう。」


エデンが提案する。


「あっちだ!」


その言葉を耳に入れた瞬間、エデンの横からマイが速攻駆け出す。


「待って!」


エデンは凄まじい反射神経ですれ違うマイの手をがしっと掴み、詰め寄る。


「待って?そっちじゃないよ。てか、マイここ来るの初めてじゃん。テキトーに走ったら迷子になるよ?」


「うわあああ!わかったエデン!わかったから!手を離すんだぁぁあ!」


ユリは二人の様子に察する。


(なんという天然たらし!エデンさんも随分と罪深いですね...!いいな...。私も手、繋ぎたいな...。)


ユリはユーキの手をチラッと窺う。


「みんな、僕に着いて来て。ここに来たことあるんだ。一回だけど。」


エデンの屈託のない笑顔と後に続いた頼りない言葉に、一同は不安な表情を浮かべながらも着いていくことになる。


 その後、エデンは一同の予想通り「あれ?」「さっきと道が変わってる?」と街中をウロウロと歩き回る。


「...。」


道中、ユーキは意外にも文句を言わずに勇者一行についていく。


ユリはその隣を上機嫌で歩く。ユリは勇者一行の後ろで、ユーキの手に故意にぶつかり、そのまま器用に手を繋ぐことに成功していた。


「勇者一行って楽しい人達ですよね。気が楽になります。...ユーキ?私の話、聞いてます?」


前を向き続けるユーキからの反応はない。ユリはそれを良いことに、するっと指を絡め握り直す。握られた手は一瞬力が入るがすぐに脱力する。


「えへへ...安心するなぁ。」


ユリは嬉しそうに笑いかける。


「...。」


ユーキは目の前をふりふりと歩くモンペンの後ろ姿をひたすらに見つめる。


モンペンはそんな二人を隠すように勇者一行とユリ達の間をノコノコ歩く。弟の視線を背に感じながらも、もぺーっと空を漂う雲の数を数えた。


「さっきの道を曲がった先だったよな?違ったかな?」


一行がほとんどの道を制覇した頃、ボドーが控えめに、しかし、エデンよりも信用できる情報を発する。その言葉により一行はようやく鑑別の魔法使いの館にたどり着いた。


 鑑別の魔法使いはユリを水晶で通し調べる。


「ふむふむ...。この子の心の深淵に青い闇を感じる...。寝ている時に青の魔法陣が発動するのは恐らくそのためだ...。」


「な、なんと。これを取り除くことはできませんか?」


「ふむふむ...。解呪で変わりなかったのであれば難しいだろう...。無意識の破壊の衝動に作動しやすいから心穏やかに過ごすことだ...。」


「心穏やかに...!?ぜ、善処します...。」


ユリは不安気に頷く。青の魔法陣を宿した状態で心穏やかに過ごせる自信がない。そこにマイが後ろからがばっと抱きつく。


「一歩前進だな!やはりユリは魔王に利用されていたようだ!」


マイはユリの不安など吹き飛ぶ程前向きな言葉をかける。抱きつかれたままユリが振り向くと、エデン、ボドーも穏やかな表情を浮かべこちらを見ている。ユリは勇者達に信じてもらえたことに気づき息をついた。


 一行が屋敷を後にする際に、鑑別の魔法使いが訝しげに呟く。ユリは振り返る。


「ふむふむ...?もう一つ...猫?」


ユリはその言葉の意味をすぐに理解する。


「はい!その方なら知ってます!大丈夫です!」


ユリは笑い、軽い足取りで屋敷を出る。


その存在は、ユリが人間であるにも関わらずモンペンと会話をすることができた理由でもあった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る