『異端』ルート

第27話 絶対置いていきたい青年vs絶対置いていかれたくない少女

⭐︎21話 分岐点後の別ルートの話です。



 微睡むユリに小さい鳴き声が聞こえた時、何故か両手にじんわりとした暖かさが灯る。


ユリは不思議と目の前にいる存在が、自分達と一緒にいる今でも、ひとりぼっちでいる気がした。


睡魔を振り切り考える。


エデンを助けるのは諦めたくない。しかし、はユーキは魔王は討伐するものと考えている。


多くの命を奪っているためにその信念は揺らがないだろう。


そして、彼にとって他人どころか仲間すらも受け入れることは難しいのかもしれない。


ある考えに辿り着きユリは窓の前に立つユーキに近づいた。


「......なんだよ。」


ユリの不穏な様子にユーキは怪訝な表情となる。意を決して口を開いた。


「私の全部をあげます!そのかわり、ユーキと同じ道を歩かせてください!」


それはまるでプロポーズにも聞こえる言葉である。同じ道とは、型にはまらず命を奪うことを厭わない、ユーキの進む道であった。


ユリは自分の全てをかけて、他者を受け入れられない彼の例外な存在となろうとしたのだ。


「また寝ぼけてるようだな。お前、俺が何をしてきたか知ってるよな?」


「知ってますけど、それが何か?あなたがどれだけ殺してきたことなら構いません。ずっとそばにいさせてください。」


「何言ってる。さっさと寝ろ。」


相手にされず会話を終わらされそうになる。


「本気なんです!聞いてください!私とユーキが一緒にいれば何でもできます!魔王を倒すことも、エデンさんを助けることも!今までの旅がそうだったじゃないですか!」


その旅には誰の味方にもなれて誰の味方にもならない自由さがあり、その旅は時にただの旅人になり時に影のように暗躍する等何者にもなれ、その旅は命を奪うばかりではなく助けることもできる、


器用で不器用な旅であった。


「...今までは運が良かっただけだ。今回ばかりは譲れない。魔王は殺す。」


「協力します!そのかわり、エデンさんを助けることも協力してください!」


「意味がわからない。」


「ユーキと一緒なら、私にも命を奪う覚悟があるって言ってるんです!」


「馬鹿を言うな!お前にできる訳がない...!お前が思っている程、簡単なことじゃない!」


ユーキの声は咎めるように大きかった。


その生き方は、助ける命を秤にかけ苦渋の選択を迫られる。他人も自分も傷めるものであることを彼はよく知っていた。


「重々承知しています!ひとりで背負わせたりなんかしません!私達ならもっとうまくやっていけます!」


その一方、二人での旅は一人にその責任を負わせず新しい選択が生まれるものであったことをユリはよく知っていた。


ユーキは動揺する。ユリに退く様子がない。不本意ながら事実を告げることにした。


「お前のような足手纏いとなんて迷惑だ。」


「..........。」


『足手纏い』


それは、戦うことのできない雑魚なユリが最も気にしていることである。


ユリには返す言葉が見つからない。彼をひとりで戦わせている後ろめたさがあった。不甲斐なさで涙が溢れそうになるのを堪える。


「...あ、あなたが迷惑でも関係ありません...。嫌がられても着いていきます。逃げても見つけ出してみせます!器用SSな私がキングオブザ不器用なあなたに負けるはずがないです!!」


ユリは必死に迫る。ユーキはその気迫にひるんだようだ。


「…お前はまだ誰も手にかけていない。今のうちに故郷に帰れ。」


「帰る家はもうありません。青の魔法陣を宿してたくさんの人と魔物を死なせました。」


「お前がやりたくてやったわけではない。」


「でも、私がやりました。もう後戻りはできません。」


ユリは故郷に帰るつもりも、来た道を戻るつもりもない覚悟だった。


「...俺なんかに何故そこまでこだわる?」


「正直に言うと、最初は弱い私の代わりにユーキに勇者一行の力になってほしかったんです。」


ユリは出会った頃のユーキの暗い目を思い出した。


「でも、あの時本当は、私がユーキの力になりたかったんです...。ほっとけなかったんです。ずっとそばで支えたいんです!雑魚の全てをかけて!!それくらいユーキが大切なんです!ずっとそばにいさせてください!」


「.........。」


「なんか喋らないと都合良く解釈しますよ?」


「.........。」


ユーキはユリを前に言葉をなくし、壁を背にして俯いている。


ここぞとばかりにさらに迫り、踵を上げ頬に顔を近づけた。


「!」


「えへへ...誓いです!これで私とあなたは離れることはありませんね!今後ともよろしくお願いします!」


「...。」


ユーキがこれといって反応しないため、少し不安になる。しばらくして、その部屋に観念したような長いため息が響いた。


「確かに、地の果てまでも追いかけてきそうだ。」


「ユーキっ!」


瞬間、白い巨体がユーキを襲う。


「うっ!」


モンペンである。


弟よ!俺もお嬢と同じ気持ちだ!俺も混ぜてくれよな!


モンペンは論争中に目覚めていたが、起きるタイミングがわからず寝たふりをしていたようだ。ユリもタイミングを失ったもののモンペンに抱きつかれるユーキが困りながらも、しかし満更でないように見えてニヤけてしまう。


「...何にやけてんだよ。」


「えへへ、そりゃもう!今日は一緒に寝て良いですか?」


「却下。」


「な、なんで...?一緒に寝るだけですよ?私のこと、そんなに嫌いですか?迷惑って本当ですか!?」


ユーキは涙を浮かべながら尋ねるユリの問いに答えずベッドに寝そべる。


結局、ユリは自分のベッドにひとり横になり、しくしく泣きながら寝た。











「大事だよ。わからずや。」

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