外伝1 勇者一行とトラップダンジョン

 これはユリがユーキに出会う数ヶ月前の話である。


 エデン、マイ、ボドー、魔法使いは封印されている宝剣を求め、トラップダンジョンに挑むことになった。


 一行がダンジョンに侵入するとドアが固く閉ざされた。入口から出ることはできないようだ。通路は下り坂になっている。一行は地下に進んでいく。


「トラップダンジョンというだけあって、罠がいっぱいあるんだろうな...。」


そう言いながらマイがずんずんと一番前を進む。


「これとかね。」


エデンの足がガコンと沈んだ。


 瞬間、入口の近くに大きな鉄の玉が複数天井から落ちてくる。下り坂であるため勢いをつけて迫ってくる。


鉄の玉からみんなで必死に走って逃げる。


「エデン!?なぜだ!?どうしてだ!?」

ボドーがエデンに悲しげに問う。


「つい気になっちゃって、ごめん!」


興味本位だったとはいえ、こうなることはエデンも予想外だった。焦りながら謝る。


必死に逃げる一行の前に壁が見えた。


「行き止まりだぞ!?私達の冒険はここまでだ!」


マイが早くも諦める。


そこで、魔法使いが意を決して振り返り魔法を唱える。


『時間停止』


鉄の玉周辺の時間が停止し、一行の目の前でピタッと動きを止めた。


「ありがとう、助かったよ。」


エデンが魔法使いを撫でる。


魔法使いはその手をピシっとはたき、見つけた罠をわざわざ踏まないようにとエデンをガミガミ叱った。


「ごめん...ごめんなさい...。」


エデンは正座し反省した。


 一行は壁に隠された部屋を見つけ、先に進む。


部屋には2つのボタンがあった。

マイがそれに突っ込み素早く2つとも押す。


「!?」


魔法使いは驚愕する。


「マイ!?お前もか!?なぜなんだ!?」


ボドーがマイに詰め寄り悲しげに問う。


「これは押せという誰かのメッセージだ!」


マイが早とちりしつつ断言する。


 途端、部屋中からガコンという音がして、罠が発動した。部屋の両端の壁が一行を押し潰そうと迫ってくる。


マイは魔法使いの前に正座し反省する。よく考えてから行動するようにと魔法使いから注意を受けた。


「すまない...。私達の冒険はこれで終わりだ...。」


そして、全てを諦めた。


「いや、まだだよ。ボドー、この壁壊してくれるかな?」


エデンが状況を素早く把握しボドーに声をかける。


「やるんだな!?やっていいんだな!?」


ボドーが壁に向かって構える。



「やるぞ!?本当にやるぞ!?」



壁が迫ってくる。




「本当に?」


 


ボドーが振り返りみんなの意向を確認する。





「いいのかな?」





壁は目と鼻の先である。






「やって?」






魔法使いが早くやるように叫んだ。



間一髪、ボドーは壁を壊すことに成功した。壊れた壁から通路が出現した。


ボドーは正座し魔法使いから動く時はきびきび動くようにと説教を受けた。


 一行が通路を進むと部屋がみえてくる。その部屋の地面にはうごうごと虫が溢れていた。


「終わったな!」


マイが逆の方向に速攻駆け出す。その手をエデンががしっ!と素晴らしい反射神経で掴んだ。


「うわぁぁあ!何をするんだエデン!?もうこの先には何もない!帰る時だぁぁあ!」


「待って。この先に通路が見えるよ。まだ終わってないよ。」


マイは虫が嫌いだった。うごうごと動く虫をみて鳥肌を立てている。


「お願いできるかな?」


エデンが魔法使いに魔法で虫を片付けられるか尋ねる。魔法使いはふるふると首を横に振る。


「そっか、殺生はしないんだもんね。」


エデンはそう言い、ひょいとマイを抱き抱え虫部屋を進み始める。


「きゃああああああ!きゃああああああ!」


 マイはエデンの顔が近いこと、下に虫がいっぱいいる状況であることに絶叫し暴れる。


「わ、暴れちゃだめだよ。落としちゃうじゃん。」


エデンがさらにぎゅっとマイを抱き寄せる。エデンの顔とマイの顔がぺたっと触れた。


「ぴ!?みんな...今まで、ありがとな...。」


マイはガクっと行動不能になった。


魔法使いもボドーに乗せてもらい虫部屋を渡った。



 その後も、一行はわざわざ罠にはまりつつ、魔物と戦い、なんとかトラップダンジョンの最奥にたどり着いた。


 最奥の部屋の中央には宝石のたくさんついた剣が突き刺さっている。


「ヤッタナ。サアエデン。ヤルンダ。」


マイは壊れたような声を出す。


「うん、みんな、準備はいい?」


エデンが突き刺さっている宝剣を握る。


魔法使いがこくっと頷く。


「ふんっ!」


ばきっ!


宝剣はエデンにレバーを引くように力を入れられ悲しくも折れてしまった。


「!?」


エデンも含め、一同は驚愕する。


「なぜだ!?なんのためにここまできたんだっけ!?エデン!?」


ボドーが泣きながらエデンにしがみつく。


「ええ!?これを引けば次の部屋に行けるんじゃないの!?」


エデンもレバーが折れてしまったこと、しかも部屋になんの反応もなかったことに驚愕している。


その顔を魔法使いが高速で引っ掻く。


「あ、あ、あ、ごめん、ごめんなさい...。」


エデンはみんなに一生懸命謝った。



 宝剣を破壊した一行は、魔法使いの転移の魔法でダンジョンを脱出する。外はすっかり夜になっていた。


「ま、折れてても売れば美味しいご飯が食べれるだろう!」


マイが大事そうに折れた宝剣を持って宿に入る。


「残念だったな?でも良かったよな?」


ボドーも軽い足取りでるんるんと宿に入る。


エデンも宿に入ろうとしたが、夜空を眺めて立ち止まっている魔法使いに気がつき、声をかける。


「宿に帰ろう?」


魔法使いは自分が助けられなかった、ある国のことを考えていた。エデンはその姿に出会った時のことを思い出す。


「行こう、アルマ。」


「にゃあ。」


その魔法使いはエデンの肩に飛び乗って一緒に宿に入っていった。


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