第16話 楽しいレッスン①
一行は勇者達から森へ逃げ隠れた。
そして、ユリの魔法を使うための修行が始まった。
修行は胆力、体力、集中力、魔術の勉強等だった。中でもユリは明らかに体力が欠如していた。
「さあ!休憩しましょうか!」
ユリは地面に座り込む。
「休んでいいって誰が言った。」
その頭をユーキが掴んで立たせる。
「ひぃ...!それが、もう走れません!....というか立てません!足の感覚がおかしいんです...!」
ユリの足は筋肉痛を通り越し、びっきびきに硬くなって震えていた。
「根性で動かせ。あと30分。」
ユリは無理無理と首を振る。
その後、ユリはモンペンと縄で結ばれ、30分間引きずられるように足を動かさせられていった。
次に腕たて伏せをする。ユリは3回で地面にべたっとへばった。
「舐めてるのか?遊んでるのか?」
あまりの体たらくにユーキが凄んでくる。
「違うんです!私の右腕なくなっちゃったんです...!どうすればっ!」
ユリは右腕の感覚がなくなっていた。
「なんのために二本ある。」
その後、ユリは左腕の感覚も同じようになくなるまで続けさせられた。
次に腹筋をする。10回を超えたあたりからその異常は起きた。
「ぐ!?うう...!」
ユリが起きあがろうとしたらお腹からぴきっと何かが切れる音がした。その痛みを庇うように起き上がる。
「姿勢が悪い。もう1セット追加。」
ユーキが機械的に告げる。
「...!?気のせいです!理不尽です!横暴です!」
ユリは泣きながら縋りつき異議を申し立てたが却下された。
次に魔力を手に込める練習をする。集中力が必要とされた。
「おにぎり...おにぎり...。」
ユリは魔力をおにぎりを握るように器用に手に集めていく。しかし、途中でポンっとおにぎりは霧散していった。
「あの時の音の正体はこれか...。」
ユーキは納得した。
このように、ユーキが強いた短期集中型の修行はユリにとって酷なものだった。
ユリは体力Eなだけなら良かったが、筋力Eでもあった。体力をつける以前に雑魚な筋肉が突然の運動量に悲鳴をあげぷちっと壊れていった。
そして、ユリにとって最も不運だったのが、ユーキが回復魔法を使えることだった。ユーキは何の躊躇いもなくユリの泣き言を全て聞き流し、限界まで運動させた。ユリの虚弱な筋肉が壊れたら優しく回復魔法をかけてやり再び繰り返させる。
そんな生きた地獄のような手法だった。
「え、つらいです。」
回復が終わった後、すぐにユリが泣き言をいう。
「まだ口が動くくらい元気なようだな。」
ユーキがユリの首根っこを掴み次の運動場に引きずって行く。
「あ、待って、口動かないです。あ、違います、喋れないんです。ほんとに、あ。」
ユリの悲痛な声はユーキには何も届かなかった。
その後、3時間程でユリはぽきんと挫折した。ユーキから器用に逃げ、モンペンの影に隠れる。
「ヤる気が尋常じゃありません...。いつもより生き生きしている気がします...。いつもはもっと、こう、死んだ目をしてたはず...!それじゃ、ユーキは今何かに乗り移られてるのかも..。そうだ...!そうに違いありません...。」
ユリがぶるぶる震えながらモンペンに縋る。モンペンが優しく声をかける。
お嬢。弟は信じてるのさ。お嬢ならやり遂げられると。俺も信じてるぜ!
「モンペン...。」
「探したぞ。」
がし!っとユリは頭を掴まれ立たせられる。モンペンが普通にペンペン喋っていたため見つかったようだ。
「休んでいる暇あったら瞑想しろっていったよな?」
「ひぃぃ!」
ユリは一生懸命モンペンにしがみつくがユーキに連れていかれる。モンペンはぶちぶちぶちと羽根を数本失った。しばらくしてから肌の一部が露出していることに気づき、ショックを受けた。
日が暮れる頃、ユリはもやしみたいになっていた。何をする気力もなく、そこらへんの草の上にポトっと落ちた。
ユリが目を覚ました時には夜遅くになっていた。毛布がかけられている。
「むにゃ?...わああああ!」
(しまった!寝過ごしてしまいました...!)
「お疲れ。」
ユーキがスープをくれた。
「すいません!料理、作るの忘れていました...。」
ユリはユーキに怯えつつそれを受け取った。
「お前は修行に集中してればいいんだよ。」
スープはごろごろと具材が入っていて味は素っ気ないものだった。それでも、ぽかぽかと暖かくてユリはじんわりする。
「お前ならできる。」
その声は真っ直ぐで、ユリを信じて疑わないものだった。
「が、がんばります。」
「がんばれ。」
不器用な言葉の一つ一つが、じわじわとユリの心に沁み渡る。
(やばいです...。ユーキが赤ちゃんに、見えない...。)
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