第15話 ユリ

 モンペンは勇者一行から逃げ、足をぺぺぺぺと高速に動かし森を彷徨っていた。そう、モンペンは逃げたはいいがどこに行けばいいかわかっていなかった。


(どこに向かえば、俺はどこに向かえばぁぁぁあ!?)


ユーキがそこに追いつく。


ユーキに導かれながらなんとか安全な場所につき、一行はひとまず腰を下ろした。



 相変わらずユリは抜け殻のようになっている。ユーキがほっぺをぎゅーっとつねる。


「痛いです。」


「ユリ、何考えてる。」


ユーキが聞く。モンペンも同じ気持ちだった。ユリは焦点が合わない目で俯きながら呟き始めた。


「私は、たくさんの人を危ない目に合わせてきました...。」


ユリは自分の危険な魔法を思い出す。


「傷ついた人も、死んでしまった人もいました...。大事なものを壊して大切な人も危険な目に合わせて...。」


死んでいく魔物や人、壊れた街、リン、モンペン、ユーキ。ユリの目から涙が溢れる。


「私は、危ない人間なんです、この先も、たくさん人が死ぬかも、だから、私が早く死ねば、みんな、喜ぶのかなって...。」


ユリの頭に今まで出会った人達の顔が浮かぶ。


「私はっ、死んだ方がっ、いい...」


「俺はそうは思わない。」


泣き出すユリの頬に片手を添えられた。


「俺は悲しい。」


モンペンがしばらくぼーとしていたが、はっとして激しく頷く。


「お前は人々を傷つけてきたかもしれない。でもそれ以上の人を助けていた。お前は魔王じゃない。と、思う。たぶん。」


「たぶんって頼りなさ過ぎです...言い切らせてあげます。」


ユリは顔をあげる。いつのまにか涙は止まっていた。



 ユリは自分のことを話した。


農家の家で過ごしていたら魔法使いの記憶が流れ込んだこと、魔力が跳ね上がったけど魔法陣が使えず器用さが上がったこと、冒険団から『無能力』と言われたこと。


「なんっだそれは。意味がわからん。なんであの最強の記憶がお前にあるんだ?」


ユーキは想定以上の話に首を傾げた。


「全くです。なんなんでしょうね。」


ユリも傾げる。


モンペンももぺー?と斜めになっていく。


「でも信じる。」


ユーキの言葉にユリは少し嬉しそうに笑った。


「お前は寝ている時に青い魔法陣を出すが、意図的に出すとどうなんだろうな。」


「やったことがありません。」


「とりあえず起きている時に魔法使ってみろ。コントロールできるようになるかも。」


「いやいや!無理です!使えません!冒険団から無能力と言われましたもん!」


食い気味に言い切るユリのほっぺをユーキが宥めるように撫でる。


「使えないだろうな。だってお前、


 なんにも苦労してないもんな。」


ギチィ...


ユリのほっぺは最小におしつぶされた。



 魔法を使うというのは厳しい修行をして少しずつ開花していくもの。ユーキも同様であった。


ユリは魔法使いの記憶で30年分の修行をしたと冒険団に話した。しかし、所詮は記憶。修行した気持ちになっていただけだった。



 ユリが逃げようとすると、もふん!とモンペンの羽毛にめり込んだ。がしっ!と頭をユーキに掴まれる。


ユリは絶望した。

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