第17話 楽しいレッスン②

 修行を始めて5日後。


ユリは以前よりは体力がついた。


「おにぎり...おにぎり...。」


ユリが集中して魔力を手のひらに込める。

ユーキはその謎な呟きに疑問を持ちながらそれを見守った。


ユリは地獄の修行の成果かそれなりに魔力の塊を維持できるようになった。しかし、それを魔法に変えられず進めないでいた。


ユリは目を閉じ考える。


(この魔力をどんな形にすればいいんでしょう...。)


ユリの頭にあの夜の言葉が浮かんだ。



お前ならできる。がんばれ。



じんわりとした温かい気持ちが蘇る。その気持ちが魔法に姿を変えた。



ぽんっ



瞬間、ユリの手の平の上にコイン大の小さい魔法陣が現れ、線香花火のような小さい火が現れた。あまりの小ささに二人は目を凝らす。


「赤か。」


その魔法陣は青ではなく赤い色をしていた。それは、ユリの本来の魔法陣の色だった。


「すっげぇちいさ。こんな弱っちいの見たことない。」


その火の玉はそれで何かに火をつけることができるかわからないほど、とても弱いものだった。もしかすると、熱も感じられないかもしれない。ユリはそれほどに魔法の才能がなかった。


『魔力がとても高くても魔法の才能がない』

能力診断でいわれていたユリが器用になった理由だった。


「お前は魔法の才能も雑魚だ。」


「もう!わかってますよ。」


ユリは自分がただの農家の娘であることをわかっていた。


「わかってたのに。」


自分は人を傷つけたいなんて思ってないことをわかっていた。


「わかってたのに...!」


それなのに、できなかった。それほどにユリは自分を恐れ信じられなくなっていた。


青の魔法陣がなんで自分にあるのかわからない。自分は魔王じゃない。そう必死に助けを請えば良かった。もう少しのところであの優しい勇者に手を汚させてしまうところだった。


そして、自分の軽率で身勝手な判断がモンペンやユーキに悲しみを与え傷を残すところだった。それは自分を信じてくれていた仲間へのとてつもない裏切り行為に思えた。


そんな自分の浅はかさが嫌で悔しくて、ユリの目に涙が溢れる。


「お前はよく泣くな。」


ユリの自責の念など何も気にしていないように、ユーキが乱雑にユリの頭を撫でる。ユリの栗毛がぐちゃぐちゃになっていく。


ユリはこの不器用で温かい手のひらに何度も救われていた。


自分が自分を信じられなくなった時も、不器用に声をかけて信じてくれていた。


その存在は苦しい時もずっとそばにいてくれた。


ユリはじんわりあったかくなる。


(うわ。やばいです。もう...。)



「好きだなぁ...。」



ユーキがその動きを止める。


ユリは心の中で絶叫した。ずっとしまっていたことがぽろっと溢れ出てしまったようだ。


「...寝ぼけてるようだな。」


ユーキが呆れたようにユリから手を離す。




(......は?......何ですと?)




その子供扱いな言動は、ユリの中に火をつけるには十分だった。



「...別に寝ぼけてなんかいませんけど。」



ユリははっきり言い放ち、離れていこうとするその手をがしっと掴む。


その様子にユーキは呆気にとられた顔をする。


「そっちこそ!いつまでも寝ぼけていられると思わないでくださいね!」


ユリは顔を真っ赤にしながら、ユーキを真っ直ぐ見て宣戦布告した。


モンペンはその様子を横目で見て、ふっと目を閉じた。


弟よ、わかるぜ?その気持ち。

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