第11話 夜の国の謎①


 夜の国『ソル』に向かう道中。


ユリはユーキの剣を手入れしていた。先日抱きついた時に腰の剣から悪臭がしていることに気づいた。手入れした後、顔が映るほど滑らかな剣身になりユリは達成感を感じた。


ふと思いつきユーキの真似をして構えてみる。


それに気づいたユーキは木陰から興味深そうに見守る。


剣先がプルプルと震える。

(おっも...。)

ユリは気合いで「やあ!」と振りかぶった。



 その頃モンペンは花畑で蝶々と追いかけっこをしていた。

ははは!待ちたまえ!

蝶々が悪戯にひらりと方向を変えたのでそれを追う。


ガスッ


自分が先程いたところに剣が刺さる。

「わぁぁすいませんー!飛んでいっちゃいましたーー!」

モンペンはユリが近寄ってくる姿を最後に立ったまま気を失った。



 次にユリは剣がダメならと弓を作ってみた。しかし、ひく力がなく矢はぷるんと下に落ちていく。


ユーキが当ててみろと手を開いてユリにパンチさせると、方向が外れユーキは小指を突き指した。

「あ!何するんですか!」

ユリも何故か痛がる。小指が当たったユリの拳が少し赤くなっている。


ユーキはいろんな気持ちを込めてユリのほっぺを左右にギリギリ引っ張る。

「すみません...すみません...。」

ユリは一生懸命謝った。


みんなでユリの戦闘力はゼロであることを確認した。



 数日後、一行は夜の国『ソル』に到着した。


 国の領地に入った瞬間昼にも関わらず暗闇が広がる。


「すごいですね。本当に夜になりました。」

「昔からそうなんだよ。」


国は高い城壁で覆われており、入り口は門番が二人守っている。


「俺は5年前にここの王を殺してる。そう簡単には出入りできない。」


「え、何してんですか!もう!」


衝撃的な発言をユリはあっさり受け入れる。


(あれ?魔法使いさんもここを訪れたのは5年前...その時その王様は生きていた。ユーキはその後に?魔法使いさんとユーキの関係って...。いや、今は考えている時ではありませんね。)


ユーキはこの国にとって犯罪者であるため、門番に気づかれないように入国する必要があった。


「仕方がありませんね。」


ユリがごきっと首を鳴らす。



 門番が見張っていると、のこのこと怪しい鳥が草むらから出てきた。門番はそれに注目する。


その隙にユリがトコトコと壁の真横から近寄る。気配を感じて門番が振り向くと背中に張り付くようにすっと移動する。もう一人振り向くが背中の影で見えない。そして後退りしながら門の奥にくるっと消えていった。


その後、どうやったのか城壁の上からひょっこり現れ手を振り、門番から見えない角にロープをおろした。


「忍者か...。」


ユーキはユリの巧みな技にツッコミを入れた。


モンペンは手でロープを掴めずしばらく格闘したが、やがてもぺーと諦める。痺れを切らしたユーキに縛られ引っ張り上げられる。お腹に痛々しい跡が残りしばらく消えなかった。



 一行は空き家を見つけそこを拠点とすることにした。ユリが楽しそうに掃除し改造する。水、電気、燃料はユリが器用に工作し引っ張った。


その日はそのまま休むことになった。



 ユーキが入浴している。お風呂にはハーブが散りばめられ良い香りがたっている。


「お湯加減いかがですか?」


ユリが扉の向こうから話しかける。


「悪くない。」


ユーキがふと声をかける。


「少しいいか。」


「どうしました?」


「一応話しておく。お前は寝ている時に魔法を使っていることがある。」


「そうですか。すごーい。


ええーーーー!?」


ユリが勢いよく扉を開けてすぐ閉める。


「本当ですか!?私使えるんですか?魔法!どんなんですか?いつの話ですか?というか、きゃあ!いやあ!ユーキのえっちーーー!!」


ユリは扉の向こうで離れたいが話を聞きたい気もしてドタドタと悶絶している。


「逆だろ...。」


しばらくした後、ユリはお風呂の扉の前になんとか座った。ユリはユーキからメテオールのこと、リンを襲った魔物のこと、ダークドラゴンの召喚について話をきいた。


始め、顔を真っ赤にしていたが、すぐに青冷めた。


「そ、んな...私なんですね...。ユーキがメテオールを唱えたんだと思ってました...。」


「俺は魔法の才能がない。散々修行したが、簡単な身体強化と治癒力の強化しか習得できなかった。」


「そう、なんですね...。本当のこと教えてくれてありがとうございました...。知らなければ皆を危ない目に遭わせるところでした...。」


ユリがふらっとその場を去ろうとする。


「お前が寝ている時は見張ってる。」


「...。」


ユリは沈黙する。そういえばユーキは最近昼間に寝ていた。


「やばいと思ったら止める。お前も気をつけろ。」


「はい...。ありがとうございます...。」


ユーキの気遣いがじんわり暖かくしみる。不意に涙が溢れてきてしまったので慌ててその場から離れる。


ユリは思った。


ユーキは、本当は優しい人なんだ。

きっと5年前も。

魔法使いにできなかったから。

大量虐殺を止めるために。

王様を殺して。

自分ひとり犯罪者になって。

それがユーキの殺しを厭わない正義。

あんな虚な瞳になるまで。

それを続けてきたのだろうか。


「不器用過ぎます...。」


 

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