第10話 ユーキ
「彼女のことは極秘なんだ。でも君には教えるね。」
ユーキの問いにエデンが答える。
「彼女は、死んでたよ...。魔法によって殺されたようだ。」
それを言葉にした後、エデンとその仲間はその光景を思い出したのかとても悲痛な表情をした。魔法使いの死が本当であることを物語っていた。
「そうか。」
ユーキはその場を立ち去ろうとする。ユリは背筋が凍った。
「待って。」
エデンが一瞬でユーキの前に移動していた。
「彼女から君の話は聞いてたよ。少し話をしよう。彼を借りるね。えっと...」
「ユ、ユリです。」
「ユリちゃん。大丈夫だよ。」
エデンはユリの頭を撫でてユーキと歩いて行った。
エデンとユーキは人気のない路地裏で話をする。
「君は夜の国『ソル』の兵士だったよね。」
「それで?」
「君がやっていることは僕らの耳に届いていたよ。もちろん魔法使いも知ってた。ずっと心配していたよ。」
エデンの言葉にユーキの手に力が入る。
「君のその役割は誰も請け負おうなんて思わない。でも、間違いなく誰かを救ってる。それを伝えたかったんだ。」
エデンは優しく笑う。
「夜の国の独裁はまだ終わっていない。」
そう言い残し、エデンは去っていった。
ユーキは少しの間立ち尽くしていたが、真っ暗な瞳をして歩き始めた。
ユーキはひとり街を出ようとした時、草むらからモンペンが飛び出してきた。
「どけよ、魔物。」
鋭く睨みながら剣に手をかける。モンペンはギョッとして震え始めるがふるふると首を振り動かない。
ぎゅう
不意に後ろから抱きしめられる。
それはユリだった。抱きしめながらじっと見つめてくる。あまりに真っ直ぐ見てくるため目を逸らすと、きゅっと体が不自然に締め付けられた。
「は!?」
下をみると縄で腕と腰がぐるぐる巻きになっている。抱きしめられているのではない。ユーキはユリに縄で縛られていたのである。
ユーキが自分の状態を脳内で処理している隙に、ユリはシュババババッと目で追えない速さで足を拘束していく。
文句を言おうとした瞬間、仕上げですと言わんばかりにズボッと口に布を詰められた。
「ンンーーーーーッ!!」
激昂して体に力をいれるが遅すぎた。関節周囲はより強固に拘束されているようだ。
「ちょろいですね。」
ユーキは宿に連れて行かれた。
宿にて。ユリ達はユーキを拘束したまま話をする。
「話は聞かせていただきました。」
「!?」
ユーキとエデンが会話している時、ユリは木箱をかぶり少しずつ、少しずつ、器用ににじり寄っていた。最終的にユーキのすぐ左後ろで盗み聞きをすることに成功した。背を向けていたユーキはもちろん、木箱が視界に入っていたはずのエデンも全く気づかなかったのである。
「拘束した理由はこうでもしないとあなたがひとりで消えてしまう気がしたんです。すみませんでした。」
ユリは申し訳なさそうに話す。それにしてはあまりに迷いのない縛り様であった。
「私と話をしてくれますか?」
ユーキは怪訝な顔のまま反応を示さない。
「...それではこのまま聞いてください。」
ユーキの答えを認識し、ユリは話を続ける。
「ユーキの旅でいろんな人が救われていました。誰かを殺すだけでは助けられなかったはずです。それは、あなたがひとりではなかったからです。あなたが進んで戦ってくれている間に私やモンペンがそれぞれの役割を持つことで、人を救うことができました。」
モンペンがぺちっと自分の腹を叩く。
「ユーキが戦うことは間違っていません。間違っているのはひとりになろうとしていることです。あなたはひとりでは解決できません。」
ユーキは静かに聞いている。
「仲間を置いていかないでください。」
ユリはそう言いユーキの口の布を外す。
「......。」
ユーキは居心地悪そうな顔をしている。モンペンがペンペン話しかける。
「大丈夫だ、弟よ。人間食ってたけど俺だって変われたんだ。お前も変われるさ。だそうです。えっ?」
食ってたの?
モンペンはほっこりと照れ臭そうに頭を掻いた。
「ちなみに、私は農家を極めると宣言した次の日に冒険団になると誓って挫折し、ベビーシッターになったけど旅人になりました。」
「ひくわ。」
ユーキは苦笑した。
少し場が和んだ頃、ユーキはようやく解放された。
「ユーキはひとりになるとすぐ誰かを殺そうとするんです。これからはひとりにならないでください。約束ですよ!」
ユリが一方的に約束をするため、ユーキはなお居心地悪そうにする。
「さて、やり方はともかく、ユーキは夜の国『ソル』の人々を助けに行こうとしてたんですよね。」
ユリは目を瞑り思考を巡らす。魔法使いの記憶に夜の国の情報があった。
「夜の国『ソル』は150年程前から太陽が昇ることなく夜が続いています。そして王族の理不尽な独裁、虐殺に国民が抵抗しないでいると。」
急にユリがすらすらと的確な情報を話し始めたことにユーキとモンペンは固まる。
5年程前、魔法使いは夜の国を救おうとした。しかし、何故かその国の人々が誰も助けを望んでいなかったためできなかった。それでも諦めずに旅をしながら調べていたようだ。
「つまり、王族だけではなく国民にも問題があるようです。その原因はずっと夜であることに関係があるかもしれません。暗闇は人の心を壊していきます。魔法が関わるならなおさら。」
お嬢?...だよな?
モンペンはユリが別人になった気がして首を傾げた。
魔法使いからの情報はここまでだった。
「夜の国のソルを終わらせにいきましょう。」
ユリは噛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます