第9話 りんごの森の熊さん②
ユリは夢を見ていた。
目の前にはりんごがひとつ。
「全部燃やしちゃってください。」
りんごは燃え始めた。
「むにゃ?」
ユリは体が揺さぶられて目を覚ます。ユーキが肩に手を置いてやっていたようだ。目が回る。
「あばばば...何事ですか...。」
ユーキは舌打ちし剣を持って外に出て行く。ユリは慌ててモンペンを起こし後を追った。
深夜だからか外は誰も歩いていない。そして森の方向が不自然に明るくなっている。街の出口でユーキとりんごの森を見る。
(りんごの森が燃えている!?)
街の数キロ先では5m程の大きさの黒い生き物の群れが森に向かって炎を吹いていた。
「あれはダークドラゴン!?そんな!どこからこんなに!?」
「なぁ。」
「は、はい!」
「魔物が召喚されてから、その召喚主が死んだらどうなる?」
ユリとは対照にユーキの声は静かである。
「えと...その魔力が強ければそのまま独立して行動を続けます。召喚主が死ぬことで指令が届かなくなり、それぞれの動きが悪くなるかもしれません...。」
ユーキが何故今こんなことを聞くのか不思議だった。ユーキは「そうか」と剣を抜き近づいてきた。
「......ユーキ?あ、見てください!ホワイトベアが移動を始めています!」
ダークドラゴンがりんごの森を燃やしたことにより、ホワイトベア達は東の森へ向かって移動を始める。みんなしょんぼりと肩を落としていた。
「あ、ホワイトベア達かわいそう…。でも、これで駆除されずに済みましたね。名物のりんごの森は無くなっちゃったけど、命が大事です。」
ダークドラゴン達は燃えた森に満足したのか、今度は街の方を向かう。
「ひ!?こっちに来る!?今度はこの街を燃やそうとしてるのかも!」
振り向くとユーキは目の前にいた。
「わぁ!」
「...。」
「あの?もしもし?」
ユリの隣にいたモンペンはふるっと震える。
しばらくして、ユーキは背を向けダークドラゴンの方へ向かっていく。
「え!?ひとりではさすがに無理ですよ!30体はいますよ!」
「一体も通さねぇよ。」
(ひとりでは絶対無茶なのに!なんで戦うことしか考えられないんですか!?)
「応援を呼んできます!」
ユリはモンペンに乗り冒険団へと向かった。
冒険団は深夜であるため鍵がかかっている。ユリは玄関を叩き叫ぶ。
「こんにちは!おはようございます!夜分にすいません!助けてください!」
モンペンもノックを手伝おうとする。しかし、勢いが強くドアが吹っ飛んでしまう。
その様子に受付の事務員が渋々出てきてくれた。
「昼なのか朝なのか夜なのかわからない挨拶やめてもらえます?あと、弁償をお願いします。」
「それはすいません!でも早く行かないと危ないんです!ダークドラゴンの群れが突然現れてここに向かってきてるんです!」
「?」
ユリは無我夢中に話す。しかし焦りからうまく状況が伝えられない。
「わかった。今すぐいくね。」
後ろから男の人の声が聞こえた。
街の外にて。
ユーキはダークドラゴンの群れの半数程を倒していた。しかし、多勢に無勢であり止めることができない。ドラゴン達は街の近くまで来てしまっていた。
「!」
突然、目の前のドラゴンが二体同時に倒れる。倒れたドラゴンの近くには金髪の男と赤い髪を結んだ女が剣を構え立っていた。少し遅れて青い短髪の大男も手ぶらでのこのこやってくる。
「なんだお前...。」
「僕はエデン、勇者だよ。」
金髪の青年、勇者エデンは場違いに笑った。
「ユーキ、応援を呼ぶことができました!勇者一行です!」
少し距離を置いたところでモンペンに乗ったユリが声をかける。ユリが助けを叫んでいた時、勇者一行が丁度街に到着したのだ。
勇者一行はそれぞれトップレベルに強いが個性的な性格をしているといわれ、人々に愛されていた。
剣士マイは赤毛の女性で気が早く、早とちりが多い。
格闘家ボドーは青い髪の大男で一拍遅く、自信がない。
そして、勇者エデンは天然である。
「妹のリンを送ってくれてありがとな!だがまだ早い!まだ早いからな!?」
「何がだよ。」
マイが早とちりをしながら、ユーキの背後のドラゴンに対し素早い剣撃を加えていく。
「やるんだな?いいんだよな!?」
ボドーは確認しつつ、重い拳を突き群れを薙ぎ払って行く。
「いいよ、ボドー。あれ、このドラゴン召喚されてるね。誰がやったんだろ?」
エデンがボドーがひるませたドラゴン達を起き上がらせる間もなく絶っていく。
四人が連携し、ダークドラゴンの群れはあっさりと討伐された。
(すごい!たった四人であれだけの群勢を倒してしまいました!四人いれば敵なし...魔王だって倒せるはず...!やっぱりユーキは勇者一行に入らなきゃ!)
「勇者さん、助けてくれてありがとうございます!」
「どーいたしまして。」
勇者エデンは爽やかに笑った。
「ユーキ、お疲れ様です。怪我してませんか?」
「...。」
ユーキには言葉は耳に入っていない。人を探すように勇者一行を見ている。
ユリはしまったと思った。
「魔法使いはどこだ?」
ユーキが即核心をつく。
以前ユーキはかの魔法使いが死んでいたら全てをやめると言っていた。そんな彼が勇者一行と対面してしまったのである。
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