第7話 がんばれモンペン②

 リンが突然現れた青い魔法陣に驚いていると、そこから黒い狼のような魔物が10匹程召喚された。


「え、魔物!?やだ!」


短く悲鳴をあげ、走って逃げようとするが、恐怖から足がもつれ転んでしまう。一匹の魔物がリンに飛びかかった。


ぺち!


それをはたき落としたのはモンスターペンギンモンペンであった。リンが宿から出たところを発見し、遠くからこっそり着いてきていたのである。


「え、助けて、くれるの?」


今にも泣き出しそうなリンの前にモンペンは立ちはだかる。すでに緊張してるのか汗だくだった。魔物よりもモンペンの方が2倍ほど大きいが魔物は多勢である。そしてモンペンの様子に怯むことなくにじり寄ってきていた。


モンペンは緊張のあまり過呼吸となり意識が遠くなった。そして、走馬灯のように昔のことを思い出した。



 俺たちモンスターペンギンは群れで人間を食べていた。


その日は少し違った。逃げる女を食べようとすると数人の人間が俺に近づいてきた。俺はそれを食べた。女に追い着いた時にはお腹はぱんぱんになっていた。


女は後ろを向いている。後で食べようと首を咥えようとした時、だぁという声がした。女は赤子抱いて後ろを向いているようだ。


俺は何もせずにその建物を出た。群れが移動する中考え事をする。


(さっきの女とその前に食べた人間達。自分から食べられようとしたのか。死んでまで守ろうとしたのか。自分より守るってなんだ?)


なんでか腹の奥が苦しくなった。気がついたら俺は足を止めてた。群れにはもう戻らなかった。



 モンペンは緊張に身を任せ奇声を上げながら黒い魔物の群れに突っ込んだ。狂ったように威嚇し、噛み付いた。手足をバタバタと動かし周りの魔物を蹴散らしていく。


途中体のいろんなところに痛みが走る。噛まれているようだ。しかし我を忘れ暴れているモンペンにはよくわからない。モンペンは動ける限り、一匹でも追い払おうとした。


足がもつれ倒れた時、首元に牙がかかった。


「モンペン、だめ...!」


リンが声を上げる。その時、モンペンは嗅いだことのある臭いを感じた。



 倒れたモンペンに噛み付いた魔物が砂塵のように溶けた。


「ユーキさん!」


ユーキも異常に気付き、モンペン達に追いついたところであった。次々に襲いかかってくる魔物を斬り伏せていく。数分で魔物は全滅した。


リンはモンペンに恐る恐ると近寄る。


「大丈夫?モンペン...?」


リンの手が震える。


「傷の処置をします!」


ユリも遅れて駆けつけモンペンの傷をテキパキと器用に処置していく。


モンペンは目を開けない。


「私、たくさん意地悪したよね。ごめん...まだ謝ってなかった...。」


リンは泣いてしまった。


「得意じゃないんだよな...。」


ユーキがモンペンに触れると赤い魔法陣が光る。回復魔法による治癒を試みているようだ。


しかし、モンペンは目を開けない。


「モンペン...。」


リンはモンペンの羽毛に額を押し付けた。あれだけ避けていた毛並みはふかふかと温かいものだった。




 すまない。実は、俺は気がついていた。

転んでしまったのが恥ずかしくて寝たふりをしていたんだ。羽毛により怪我は大したことない。だが俺はさっきよりも格段に困っている。三人が一生懸命、そう、俺に何かをしている状況に困っていた。起きるタイミングがわからない。


(え、どうすればいい?俺いつ起きたらいい?)


尋ねるようにお嬢を見る。

「あ、あれ!?」とお嬢が驚く。弟がやれやれと息を吐きながら手を離す。2人とも答えをくれない。


リンは額を押し付けたままだ。


(居た堪れない、居た堪れない、俺はどうすれば!?)


とりあえず元気に挨拶をしようと思ってスパンと起立した。少し勢いが強かったせいかリンが宙に舞った。


俺はお辞儀をした。

おはよう!


リンはぽかんとしていたが泣きながら笑った。


「おはよう、モンペン。」


モンペンとリンは仲良くなった。



 次の移動ではリンがモンペンの手綱を嬉しそうにひいていた。モンペンは緊張して走りたい衝動に駆られるが精一杯自制してギクシャクとした動きをしていた。手と足が一緒に出てしまっている。


荷台にユリとユーキが乗っている。


ユーキがユリを見つめ宿でのことを考える。


あの夜の宿でユリはまた魔法を使っていた。そして、今回リンを襲っていた魔物は手応えが違った。あれは魔法で召喚されたものだ。


ユーキは無意識に剣に手を添えていた。

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