第3話 アクアランドの謎②

 ユリは外へ脱出する。街にある塔の地下室に収容されていたようだ。


宿に向かう途中、ユーキと合流を果たす。


「ユーキ!無事で良かったです!これ以上騒ぎを大きくしてはいけません。捕まってる街の人達が危険な目に遭います。今は隠れながら魔物たちの数と収容されている人達の場所を探りましょう!」


「助ける義理がない。さっさと行くぞ。」


「私が生きてユーキに会えたのはこの街の人の支援があったからです。あと、助けると約束しました。」


意思を曲げないユリにユーキは深くため息を吐く。



 二人は器用に隠れながら魔物の出入りする場所、人が収容されている場所を確認する。


人々は街の東西南北にある塔四ヶ所に捕まっている。人数は200人超。魔物も同じくらい住んでいた。


ユリの脱走とユーキの宿での活躍のおかげで魔物は警戒し始めている。人を全員助けるには厳しい状況であった。



 太陽が昇る頃、体力Eであるユリは限界を迎える。二人は一旦街の外れにある森に隠れることにした。


「焚き火だと灯りと煙でバレるので木の上で寝ましょうか。」


ユーキが怪訝な表情を浮かべる。


「大丈夫ですよ!私に考えがあります。」


ユリは指をパキッと鳴らした。



 しばらくした後、ユリの器用な手先により、快適なハンモックが出来上がった。ハンモックの上には草とウサギの毛皮がひいてあり、柔らかく温かい。


ユーキはそれでも寝なかった。目の前にあるゾウさんの飾りが揺れているからである。


このゾウさんが赤子を宥めるおもちゃであることは知っている。ではなぜ自分の目の前にそれが作成されたのか。


イライラが沸々と湧いてくる。隣には作った張本人が気持ち良く寝ている。このゆらゆら優しく揺れるハンモックも赤子のゆりかごのようである。


ユーキはユリを叩き起こしたい衝動と闘って寝れずにいた。



 その頃、ユリは夢を見ていた。とても嫌な気持ちがする。目の前にはありが山のようになった巣を作ってせっせと働いていた。ユリは花火を持っている。


ユリは巣に花火を近づけた。



「!?」


 目の前が眩しく弾けユリは目を開ける。ユーキもすでに起き上がり街を見つめていた。


街の上の空が青白く光っており、そこから複数の隕石が落ち続けている。落ちた後、爆発し街は燃え盛っていた。


ユリは魔法使いの知識からその魔法の正体を導く。


「この魔法知ってます!メテオール!隕石が降り注ぐ超級の魔法です!なんでこんなものが!?」


「...。」


「みんなを助けに行きましょう!」



 ユリは街の四ヶ所の檻の開放を目指して駆け回る。状況に混乱する人々を南口から出て少し先にある森に隠れるように誘導していた。


ユーキとは別行動となっていた。


『南口から脱出させろ。俺は北で陽動する。』


隕石はその間も降り続き爆撃している。


(ユーキが陽動してくれているせいか、魔物と遭遇しない。早くしないと...!)


疲れで力の入らない筋力Eの足でユリはできる限りの人を助けるため駆け続けた。



 ユーキは火炎が舞う街の中、北側にて集まってくる魔物と戦う。魔物はもはやその姿を隠す余裕はない。魔物が戦いに集中できていればこの人間ひとりに勝つこともできたかもしれない。


しかし、正体不明の隕石は魔物の直撃を狙って降りそそぎ続けている。逃げ回ることも戦うことも満足にできず、魔物は斬り伏せられていった。


その内器用な口笛の音が響き渡る。街の人が全員脱出できたというユリからの合図である。ユーキはその場から離脱する。



 ユリは街の南出口で待っていた。ユーキの姿を見つけ手を振る。


「ユーキ!無事で良かったです!助けてください!足が疲れました!」


ユーキは呆れた顔をする。途端、辺りが暗くなる。頭上を見上げると青い光から巨大隕石が顔をのぞかせていた。


「ユリ、走れ!」


「あはは...。本当に疲れて足が動かない...。おんぶしてください...。」


ユリは顔面を蒼白にしながら訴える。ユーキは舌打ちしつつユリの元に辿り着くと、頭を掴んで森へ放り投げた。


「わああああ!」


ユリは高速でとんでいき地面に顔面を強打する。ユーキは『身体強化』の魔法を使用し森まで素早く移動した。


巨大な隕石が落ち、街は崩壊した。




 その後、騒ぎをきき駆けつけた隣の街の冒険団に生き残った魔物は一掃された。街の大半の人々は、その街に残り冒険団と協力して復刻を目指した。


そして街の人が口を揃えて言う、街を崩壊させた隕石は魔法のように綺麗に消えていて確認できなかったという。



 道すがら、ユリはユーキの隣に歩み寄り話をする。


「あなたって剣の腕だけでなく、魔法の才能もありますよね。」


「俺は魔法はほとんど使えねーよ。」


「えー?ほんとですかー?」


(隠さなくてもいいのに。意外と照れ屋さんなのでしょうか。)


ユリはユーキが人を助けるために協力してくれたこと、自分のことを名前で呼んでくれたことを嬉しく思い、上機嫌であった。

 

ユーキはユリを少し見つめ、前を向く。



 あの時、ふと横を見るとユリが片手をあげていた。その手に青い魔法陣が出現。それと同じ巨大なものが街の空を覆いメテオールという魔法が始まった。


ユリは気づいていない。あの魔法を唱えたのは。



「お前だよ。」


ぼそっと呟かれた言葉は本人には聞こえない。


「そういえば、街の人が1ヶ月前に勇者一行は西の街に向かったと話してくれました。いってみましょ、ユーキ!」


ユリはあの異常な状況で器用に情報収集を果たしていたようだ。


ユーキはユリの器用さに感嘆した。

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