第2話 アクアランドの謎①


「はぁはぁ...待ってくださぁい...。」


 筋力E体力Eのユリはユーキの旅に必死に着いていっていた。ユーキは少しも歩幅を合わせずマイペースに街へ進んでいく。


(うぐぐ。こんなことではいけない。ベビーシッターとしてユーキを教育しないと...!)


「ユーキ、簡単に生き物を殺すのは、よくありません...。他の手段も考えましょう...。あと、その不機嫌な顔、なんとか、してください、失礼、ですよ...。」


ユリは一生懸命公正しようとした。しかし、「はいはい」と聞き流されるのみだった。



 ユーキとの旅は街に着くまでは野宿である。食事休憩にて、ユリは器用SSを実践してみる。


 火起こしはそこらへんに落ちている木で瞬時に火がつく。ユリが料理をしようとすると適当な調味料でさわやかなスープを器用に作れる。ユーキがうさぎを捕まえるとユリは簡易なナイフで器用に捌くことができた。夜には燃え滓で暖炉をつくり、器用に応用し温かい寝床を作り上げる。


このように、ユリの器用さとは器用になせる物事全般に関わるものであった。


「お前なんなの。」

「さあ?初めてなんですけどできる気がしてくるんですよね。何故か。」

「初めてかよ...。」


ユーキはユリに少しの狂気を感じながらスープを平らげる。その後、歩くペースを少し合わせてくれるようになった。



 二人は水の都『アクアランド』にたどり着く。街のシンボルである噴水が至るところにみられた。


「ここは明後日には出る。それまでにお前、勇者一行について情報収集してこい。」


「ま、待ってください!どんな街なのかもわからないのにひとりでは嫌です。一緒に回らせてください!」


ユリは置いていこうとするユーキの足に涙を浮かべしがみつく。その様子にユーキは怪訝な顔をしつつため息を吐いた。


二人で街を回る。街には多くのお店が並んでおり、スイーツの甘い匂いもする。ユリは目を輝かせた。


「甘ったる。店にはいくなよ。」


対し、ユーキは吐きそうな顔をして言い捨てる。ユリの淡い希望はすぐに絶たれた。



 二人は街を見渡し終わり目星をつけていた宿に入る。宿は亭主の奥さんのような人が受付をしている。ユーキが宿に入るなり赤面した。


「いらっしゃいませ!何泊ですか?」

「2泊3日。」

「安くするのでもっといてください♡」

「どーも。」


意外な光景を目の当たりにしユリはユーキをよく観察する。改めてみると顔は整っている。身長が高い。目元まである銀髪が風でさらさらしている。


(でも、でも、私にはこの人が大きい赤ちゃんにしか見えません。マイペースで周囲の人を困らせるあたりまさにそれ。人妻にはストライクなのかしら。)


何がともあれ宿代が半額になりユリは安堵した。



宿の部屋にて。


「夕食はせっかくだしお店で買って食べませんか?」

「勝手に行け。俺はめんどくさい。」


ユリの提案を適当に流しつつ、ユーキは上着を脱ぎベッドに寝そべる。


「それじゃ、行ってきますね!」


ユリは買い物の承諾が得られ嬉しそうに支度を始める。


「お前この街どう思う?」

「食べ物いっぱいで綺麗で、素敵な街だと思いますよ。勇者一行も休まれるんじゃないでしょうか。でもなんか違和感あるような...。考え過ぎですね!」


ユーキは少し考えた後、声をかけようとする。しかし、ユリはすでに消えていた。



 ユリは意気揚々と街を歩く。


(おいしそうな匂いがしますね。どの店にしようかなぁ。)


丁度ステーキの看板が立ったお店にお客さんが入って行ったのがみえる。隣はパスタのお店である。


ユリは少し悩んだ後ステーキのお店に入る。「いらっしゃい」とお店の人がドタドタしながら奥から声をかけてくれる。ユリは椅子に座りメニューを開く。


「ステーキピラフくださいな!」

「おーちょっと待ってなー。」


ユリは料理を楽しみに待つ。


(私だけ美味しい思いをするのも申し訳ないですね。ユーキにお土産も買って帰りましょう。そいえばなんでこの街に違和感を感じたんでしょう。賑やかなのに。お店がたくさん賑わってる割にお客さんがあまりいなかったような...?)


そう、ユリは明後日までと言わず今日中に情報収集を終わらせるつもりでいた。しかし、店に行くことを止められ、道行く人も少なかったため、満足に情報を集められなかったのである。


この店も変である。奥にいる店の人と騒がしい音。店内は自分ひとりである。


(さっき入ったお客さんはどこに?)


ユリは異常に気づき、席から立つ。


「お待たせしました。」


お店の人は目の前にいた。顔にべっとり血がついている。ユリは小さく悲鳴を上げた。



 ユリは牢屋にて目が覚める。同じ檻に数人の子供たち、奥に数十人の大人たちが収容されている。ユリが不安そうに女の子に尋ねる。


「これはどういうことですか?」


「この街はね、少しずつ魔物が人に成り代わってたの。人を食べるとその人になる特殊な能力を持ってるみたい。表にいる人達はほとんど魔物。捕まった人は地下で働かされるか、ペットにされるか、私達みたいに食べ物にされるのを待つだけ。おねーさんは肉付きがいいから多分すぐ食べてもらえるよ。」


女の子は淡々と無感情に事実を話す。


ユリは絶望し項垂れた。


(そんな...これから私は魔物の食料にされるんですね...。美味しい思いをするはずが美味しく頂かれるなんて...。どうしてこんなことに...。)


ふと宿で休むユーキの身が心配になる。


(まだ死ねない。なんとかここから出ないと!)


牢屋には鍵がついている。周りを見渡すと女の子のひとりにペットにされてるせいか犬の首輪のようなものがついてることに気づく。首輪を借り、金具を観察する。


(これ、鍵になりますね。)


牢屋の鍵穴にかちゃかちゃと金具を入れ形状を確認。体重をかけ金具の形を変え鍵穴に入れると容易く開いた。器用SSの技である。


しかし、人々は驚きはするものの脱出しようとはしない。自分達が何かしたら別の牢屋の仲間に危害が及ぶと躾けられているのである。


ユリも気づく。


(ここの牢屋の人々は50人はいますね...。この街の大きさから牢屋にいる人々はきっとここだけじゃない。今この人たちを助けたら誰かが確実に見つかってしまう。そうなると捕まってる人みんな殺されてしまうかもしれません...。)


自分を見つめる子供の手に自分のそれを合わせ約束する。


「絶対、絶対戻ってきます。あなたも、他のところにいるみんなも助けてみせます。だから、信じて待っていてください。あと、その時までに覚悟を決めといてくださいね。」


子供の目から涙が落ちた。ユリは子供達が見つめる中、牢屋の鍵を閉めた。



 その頃、宿にて。


ユーキが泊まっている部屋がノックされる。


「どーぞ。」


部屋に入ってきたのは受付の女である。女はユーキに近づく。

 

「なに。」

「お客さん本当にカッコいいですね!もう食べていいですか?」


女の顔が異形に変わりユーキを押し倒す。


その顔に剣が突き刺さる。ユーキは剣を抜いたまま布団に隠し待ち構えていたのである。


まとめておいた荷物と上着をとりユーキは部屋を出た。

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